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[異議あり匿名社会]「英米の現状<4>」
◆英情報コミッショナー委員会 デビッド・スミス氏に聞く
個人情報保護か情報公開か——。英国ではデータ保護法と情報公開法を所管する独立監視機関「情報コミッショナー委員会」が、双方の調和を図っている。ナンバー2のデビッド・スミス副情報コミッショナー(データ保護法担当)に、運営の実情や理念を聞いた。
——保護法の目的は。
現代社会は、膨大な個人情報がコンピューターに蓄積され、簡単に高速で転送される。法は紙のファイルも対象にしているが、本来はコンピューター上の個人情報を守り、適切な利用を図っていくのが目的だ。
——日本ではプライバシーと個人情報の混同が見られる。違いは何か。
プライバシーは、個人情報より上位の概念だ。公正な裁判を受ける権利などと並び、他人に私生活を知られない権利で、人権だ。個人情報には、氏名や住所、電話番号、クレジットカード番号など個人を特定できる様々な情報があり、プライバシーに該当するものも、しないものもある。正しく扱わなくてはならないが、絶対に秘密にしなくてはいけないものではない。
——個人情報を公開したがらない傾向はあるか。
「保護法で禁じられている」という理由だけで開示しない傾向があるが、杓子(しゃくし)定規な判断は間違いだ。例えば、転職先に以前の勤務先があなたの勤続年数や欠勤日数、勤務評定を提供する場合も、法を厳密に解釈すれば、あなたから文書で合意を取るべきだが、口頭でも構わない。法が求めているのは、どんな個人情報を保有し、誰がなぜその情報を求めているのかを考えた上で、各自が判断することだ。人によって違う判断になっても、根拠が合理的に説明できればいい。
——開示の判断が難しいケースはないか。
迷ったり、誤ったりしていれば、我々が助言、勧告する。法の施行前は、航空会社に電話すれば、あなたが飛行機に乗っているかどうかを教えてもらえた。今は、なぜその情報を知ろうとするのか警戒される。聞いたのが犯罪者なら、あなたの留守宅に侵入するかも知れないからだ。
——日本の情報公開・個人情報保護審査会と異なり、行政から独立した委員会がデータ保護と情報公開を所管する意義は。
公的機関が個人情報を含む情報を公開するかどうか迷った時、矛盾のない明確な助言ができる。別々の組織が異なる判断をすれば混乱する。最も重要な基準は公益性だ。税金から多くの給与をもらい、責任も重い政府高官の個人情報は一般公務員より公益性が高い。
——日本では、耐震偽装事件で処分された建築士の名前が公表されなかった。
英国なら公表されるだろう。守られるべきなのは、家族構成や貯金などプライバシーだ。公的な資格で行った仕事は公益性があり、名前や経歴は公開されるべきだ。
——個人情報の保護では、今後、どんなことに注意を払うべきか。
(漏えいや目的外利用など)個人情報が脅かされる危険は、公的機関でより深刻になるだろう。企業は顧客との信頼関係を重視して情報を守り、必要のない情報は保持しないようになるが、公的機関にはそうした緊張感がない。英国では、政府が国民一人一人の情報を管理するIDカードの導入が検討されている。政府のデータベースにどのような情報が蓄積され、どんな目的に使われるのかなどを慎重に考えなくてはならない。<おわり>
http://www.yomiuri.co.jp/feature/fe6000/news/20060324icz3.htm