悪のニュース記事

悪のニュース記事では、消費者問題、宗教問題、ネット事件に関する記事を収集しています。関連するニュースを見つけた方は、登録してください。

また、記事に対するコメントや追加情報を投稿することが出来ます。

記事登録
2006年03月20日(月) 23時07分

英医学界、患者救済危ぶむ…誤解されるデータ保護法読売新聞

 [異議あり匿名社会]「英米の現状<1>」

 「このままでは医学研究は立ち遅れ、将来、死ななくてもいい何千人もの患者が犠牲になる」

 1月17日、ロンドン。英医学会のロバート・ソウハミ・ロンドン大教授が、記者会見でそう訴えた。同学会が、医療機関や医学研究者を対象にデータ保護法などへの過剰反応を2年がかりで調べた結果、患者データを得られず研究に支障が出ている事例が、文書で報告されたものだけで70件あったからだ。

 がん、脳卒中、糖尿病などの対策につながる公益目的の研究に、医療機関が患者の情報を提供しない——。A4判77ページにまとめられた報告書の内容は、BBCやザ・タイムズ紙など英主要メディアが一斉に伝えた。日本でも、がん対策の根幹となる「地域がん登録」制度が、個人情報保護を理由に患者データの提供を拒まれるなどの事態が起きているが、保護法の歴史がずっと古い英国でも、今なお過剰反応が続く実態が浮かび上がった。

 データ保護法は1984年、日本で個人情報保護法が一部施行されるより19年も前に登場した。コンピューターに蓄積された膨大な個人データを、適正に利用すると同時に守るためだ。

 98年にはさらに手厚く保護する方向で改正されたが、報道や芸術、安全保障、犯罪、税金など適用除外の分野もある。公衆衛生の向上につながる医学研究も日本と同様、保護法の適用外で、医療機関は患者の同意なく、個人データを提供できる。こうした研究では、検証のため患者の特定が必要な場合も多いからだ。

 ソウハミ教授は「法律を正しく理解している人は少ない。現実には、個人情報保護や匿名化のムード、法の拡大解釈によって、情報提供を拒否されるケースが増えている」と話す。

 改正法の施行から8年。英国社会には今も、笑い話のような過剰反応が残る。

 「親でも子どもの成績は教えてもらえない。学校行事で子どもの写真を撮ってもいけない」「企業は顧客の個人情報を絶対に開示してはならない」

 法を所管する独立監視機関「情報コミッショナー委員会」のホームページには、「俗説」と名付けられた過剰反応の典型例が並ぶ。正しい解釈を説明した「本当は」を読めば、親は当然、学校から子どもの成績を通知してもらえるし、子どもの写真撮影もできること、企業は合理的な理由があって提供先の安全管理体制が十分なら顧客の情報を提供できることが分かる。

 [異議あり匿名社会]—─英米の現状<1>

 俗説、誤解はなぜ生まれるのか。データ保護法は、「データ保護の原則」が最も重要な部分で、データの取得目的、保有、安全管理など8項目が1ページに収まっており、シンプルだ。だが、全体は75の条文と付則で84ページに上り、多数の説明や規定があるのに抽象的な表現が多く、分かりにくい。同委員会では、こうしたことが、「とにかく情報は出すな」という誤ったイメージを植え付けているのではないかとみている。

 今回示された英医学会の報告書は、過剰反応の解消に向けて五つの具体的な提言をした。

 「法の正しい解釈の普及」「個人データを活用した優れた研究成果の蓄積」「研究用の個人データ利用についての理解促進」「患者団体や研究団体の協力」「研究者による国の電子医療記録の利用」

 研究者や医療機関、保健省などから、大きな反響があったという。

 「英国は、喫煙と肺がん、元兵士と心の病の相関関係など歴史的な研究成果を上げてきた。データ保護法は良い法律だが、今後も研究を維持するには、誤解を解き、正しい理解を広めていかなくてはならない」。ソウハミ教授は力説した。

          ◇

 日本では昨年4月、個人情報保護法が全面施行されて以来、必要な情報が共有できない過剰反応や、官の「情報隠し」が相次いでいる。日本と似たデータ保護法を持つ英国と、情報公開の先進国といわれる米国の現状を報告する。

http://www.yomiuri.co.jp/feature/fe6000/news/20060320ic34.htm