2006年03月19日(日) 03時03分
牛乳100万本廃棄 「太る」印象、消費者敬遠 牧草スクスク、生産過剰(産経新聞)
高カロリー・高脂肪のイメージで健康ブームに乗り遅れた形の牛乳が大量に余り、廃棄処分される異例の事態になっている。「ホクレン農業協同組合連合会」では十八日から、千トン(一リットルパック百万本相当)の廃棄を始めた。昨夏の猛暑で牧草の生育が良好で生産過剰になり、飲料として余った牛乳を加工処理する工場がフル稼働しても追いつかない状況だ。さらに今後は春休みで給食がなくなり消費が激減、合計一万トン以上が廃棄処分される可能性が高い。
ホクレンは北海道内三カ所の工場で、月内をメドに約二千万円かけて千トンの廃棄処分を始めた。「こんなことは初めて。もったいないし、残念」と板東寛之酪農部長。農水省によると、ホクレンのような大規模生産者団体の廃棄は初めて。
乳牛四百五十頭を抱える北海道豊頃町の「Jリード」(井下英透代表)では今月初め、二十八トンを廃棄した。一リットルパック二万八千本に相当する量だ。二月まで一日十二トンだった出荷量を今月から五トンに減らされた。「それでも廃棄処分せざるを得なかった」と井下代表は話す。ほかの農家も同様という。
牛乳の消費量は平成十六年から、前年比3%を超える減少が続いている。栄養豊富=太るという誤ったイメージが先行、他の健康飲料に押されている。百世帯当たりの対前年同期比で、豆乳108%、茶系飲料104%、スポーツドリンク111%、ミネラルドリンク106%と他の飲料が伸びているのに対し、牛乳だけが93%と大きく落ち込んだ。
日本酪農乳業協会では「対策が遅れたのは確か。イソフラボンやカテキンのように、大人に飲んでもらえるように健康に直結するイメージ作りで消費を拡大したい」とPR活動の必要性を訴えている。
これに対し、生産は昨年九月から前年比増に転じた。牛乳は飲料として消費されなかった場合、脱脂粉乳やバターに加工される。現在、北海道などで一日五百トン以上の牛乳を全国の工場に分散させ、フル稼働で処理している。
しかし、脱脂粉乳からの加工品のうち56%を占める加工乳が十二年の雪印食中毒事件以降、急減し、昨年は事件当時の七割以下。バターも用途の30%に当たるパンの需要が十三年から前年割れを続け、在庫が積み上がっている。脱脂粉乳とバターを合わせた在庫は、一月現在で十一万トンと適正の二・五カ月分を上回る六カ月分に膨らんだ。
今後はさらに深刻だ。暖かくなるにつれ、一頭当たりの乳量が増加。北海道では三月から四月にかけ、過去最高の生産が予想され、そこに小中学校の春休みも重なる。消費量全体の10%を占める給食が二週間以上なくなり、その時期だけで四万トン以上の牛乳が余ることが予想されている。
生産者団体のJAなどは急遽(きゅうきょ)、余った牛乳を子牛に与えたり、高齢の牛を食用に回すことなどを呼びかけたりしているが、「減産といっても、工場と違い搾乳は休むわけにはいかない。乳房炎などの病気になってしまう。牛は生き物で蛇口じゃない」(井下代表)との反発は強い。
ホクレンでは春休み中、道内のスーパーなどで一リットルパックに二百ミリリットルパックのサービスを行う。板東部長は「厳しいのは分かっているが、これ以上の廃棄はしないよう最大限の努力をする」と話す。
農水省生産局畜産部では「現在でも加工工場が手いっぱいで綱渡りの状態だ。今後、減産がうまくいくかは不透明で危機的状況」としている。
(産経新聞) - 3月19日3時3分更新
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060319-00000000-san-bus_all