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国民の理解と協力で成り立つ公的な世論・意識調査や学術目的の調査が、個人情報保護法の全面施行や、住民基本台帳の閲覧制限の影響でピンチに立たされている。市民の非協力、台帳の閲覧拒否……。調査の回収率はじわじわと下がる一方だ。
「55%」。首都大学東京の稲葉昭英助教授(家族社会学)は昨年10月、調査会社から調査票回収率の予想値を聞き、衝撃を受けた。同社は、稲葉助教授も所属する日本家族社会学会が2009年に実施する「全国家族調査」の委託先。
稲葉助教授は「保護法の全面施行などでプライバシー意識が一層高まり、調査は難しくなると聞いていたが、これほどとは。7割は回収できないと、正確とは言い難い」と頭を抱える。
調査は99年に始まり、5年に1回。家族に関する世代別の悩み、出産や子育てに対する男女の意識などを明らかにしてきた。回収率は、99年が66・5%、04年が63・1%、予想通りならさらに8ポイント下がる。
回収率だけでなく、調査対象を適切に抽出できるかどうかの不安も大きい。抽出には、市町村の住民基本台帳の閲覧を利用してきたからだ。総務省の検討会は昨年10月、営業目的の台帳閲覧禁止を提言する一方、学術調査目的の閲覧容認を打ち出したが、既に04年調査で奈良県内の複数の自治体から閲覧を拒否された。
稲葉助教授は、「自治体が独自に閲覧を制限する流れが進んでおり、同様の対応は増えるのではないか。今後は調査の重要性を積極的に訴えていかなければ」と話す。
国などが発注する調査も同様だ。民間の調査会社「日本リサーチセンター」(東京都中央区)では、内閣府や総務省などの世論調査、意識調査を請け負っているが、以前は企業から委託された調査より10ポイント前後高かった国や公的機関の調査も、保護法が全面施行された昨年春ごろから回収率の下落が顕著になり、企業委託の調査と差がなくなってきた。何のための調査かを説明する前に「門前払い」されることが多いという。
同社が昨年11月、断られた理由を調査員に聞いたところ、「訪問自体が嫌がられた」「悪徳商法と一緒にされた」という答えが目立った。坂場登・調査本部長は「悪質な訪問販売やおれおれ詐欺などの影響もあり、きちんとした調査でも犯罪と結びつけられてしまう」と嘆く。
関西学院大の大谷信介教授(社会学)は、「正しいデータがなければ、国民のための政策もつくれない。自分の情報を使われることを過剰に心配する傾向が強まっているが、正しいデータが得られないマイナス面も考えるべきだ」と警鐘を鳴らしている。
http://www.yomiuri.co.jp/feature/fe6000/news/20060214i105.htm