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2006年01月20日(金) 00時00分

(下)理念喪失 流された政党読売新聞


東証の売買停止やライブドア事件を話し合う自民党の財務金融部会・金融調査会の合同会議(19日)

 19日朝、東京・永田町の自民党本部702号室。「ライブドア・ショック」を受けて開かれた党財務金融部会・金融調査会合同会議は、重苦しい空気に包まれた。

 「株式分割で株価をつり上げるような手法が、なぜ堂々と行われたのか」

 「日本の証券市場が抱える構造的な問題が背景にあるのではないか」

 ライブドアグループの証券取引法違反事件は、東京証券取引所の取引停止という異常事態まで引き起こした。議論は1時間半に及んだが、出席者は事態の急展開に戸惑うばかりだった。

 江崎洋一郎・財務金融部会長は「マネーゲームのための市場なのか、企業の資金調達のための市場なのか。市場の理念が定まらないのが問題だ」と指摘する。そこには、理念を置き去りにしたマネーゲームの過熱を放置してきたことへの“反省”がにじむ。政府・与党が押っ取り刀で証券取引法改正の検討に入ったのも、こうした政治の側の反省を踏まえたものだ。

 小泉首相と竹中総務相(前経済財政相)の「小泉・竹中ライン」が進めてきた構造改革路線が、ライブドアの綱渡り的な急成長を助長してきたのではないか——。野党側のこうした批判に、政府・与党は「ルールが悪いのでなく、ルール違反が悪いのだ」(自民党・中川政調会長)などと繰り返し反論している。ただ、自民党が、「ルール内なら何をしてもいい」と言い放つ堀江貴文ライブドア社長の改革イメージを利用しようとして、その負の面に目をつぶってきたことは否定できない。

 昨年の衆院選では、武部幹事長が、IT(情報技術)時代の寵児(ちょうじ)として人気絶頂だった堀江氏の担ぎ出しに動いた。郵政民営化反対派の対抗馬として、亀井静香・元建設相の広島6区に無所属で出馬した堀江氏の応援には、武部氏や竹中氏が駆けつけ、規制緩和や既得権打破を掲げる「小泉改革」の申し子であるかのように持ち上げた。武部氏は衆院選後の昨年10月3日にも堀江氏と党本部で会い、「党改革で知恵を貸してもらいたい」と要請までしている。

 一方、野党の民主党も、堀江氏への接近には意欲を見せていた。

 衆院解散直後の昨年8月16日夜、岡田克也代表(当時)は、出馬を要請する選挙区として二つの案を懐に、すでに自民党から出馬を打診されていた堀江氏と会談している。民主党内では、堀江氏の経営手法を「ルールで認められており、批判はお門違い」(岡田氏)と見なす空気が強かったためだ。ライブドア流の“錬金術”を持てはやした一部の世論に流されていた点では、自民党と大きな違いはない。

 今回の強制捜査を機に、政治もようやく、行きすぎた市場原理主義、金もうけ主義の見直しを声高に語り始めた。

 19日の自民党伊吹派総会では、伊吹文明・元労相が「小泉改革が保守すべきは、権利より義務を果たす伝統的な生き方だ。しつけや学校教育をしっかりするために教育基本法改正に取り組むなどしないと、ホリエモン(堀江氏)のような問題が次々に起きる」と訴えた。高村正彦・元外相も18日の高村派総会で、「一生懸命に働くこと自体が尊く、儲(もう)けは働きの滓(かす)に過ぎないという精神がなくなり、儲けを自己目的とする風潮が蔓延(まんえん)している」と述べ、社会全体の意識改革に取り組む必要性を強調した。

 手法を問わずに「勝ち組」を称揚すれば、その追随者も脱法行為や違法行為に罪悪感を抱かなくなる。道義ある社会を取り戻すために、政治が何をすべきかの自問が始まっている。

特集:ライブドア

http://www.yomiuri.co.jp/net/feature/20060120nt01.htm