2005年12月06日(火) 14時46分
狙われるお年寄りの財産 消えた600万円 捜査不能 99歳、記憶になく(西日本新聞)
リフォーム詐欺や悪徳商法など、お年寄りをターゲットにした犯罪は増加の一途をたどっている。だが、被害に遭ったことさえはっきり認識できず、犯罪が顕在化しないケースも少なくない。「あいまいな記憶」が壁となり、証拠などがない限り捜査が困難となるため、被害届を受理してもらえないからだ。福岡市博多区の男性Aさん(百歳)の貯金六百万円が消えた事例を追った。 (社会部・豊福幸子)
「もう年やけん、よう覚えとらんですたい」。同区内で二十年近く独り暮らしを続けるAさんは、九十九歳だった二〇〇四年の八月と九月、別々の郵便局で、自分名義の口座からそれぞれ二百万と四百万円を引き出していた。
Aさんには郵便局へ行ったことも、なぜ大金を下ろしたのか、その後どうしたのかも、全く記憶にない。高価な品物を買った形跡はなく、手元に金も残っていない。
だが、貯金通帳と届け印はなくなっていた。二つの郵便局の防犯カメラには窓口に来たAさんの姿が映り、自筆の払戻請求書もある。カメラはAさんが二度とも同じ若い男と一緒に来局した様子をとらえていた。
「なぜ、二度とも同じ男が一緒なのか」。同市内で別に暮らすAさんの長女(65)は同年十月、福岡県警に相談し、被害届を出そうとしたが、返ってきた言葉は「確かに一緒の男は疑わしいが、(Aさんの)記憶がはっきりしない限り事件としての処理は難しい」。
長女はカメラの映像などから若い男は健康飲料などの販売で度々、Aさん宅を訪れていた同市内の医薬品会社の社員だったことを突き止めた。
同社に出向き、問いただす長女にこの社員は同行を認めつつも「Aさん宅に集金に行ったが所持金がないと言われ、頼まれて金を降ろしに連れて行っただけ。受け取ったのは集金分の十万円くらいで、あとは知らない」と答えるだけだった。
取材に対し、同社は「誤解を招く配慮の足りない行為」と社員の非の一部を認めるが、「これ以上調べようがない」としており、六百万円の行方は分からないままだ。
高齢者の財産管理問題に詳しい羽田野節夫弁護士は「男性の記憶がはっきりしない状況では、核心をつくような証拠を収集しない限り刑事事件としても、民事の損害賠償訴訟であっても勝訴は難しい」と話す。
男性の親族は訴える。「記憶が定かでなければ、何をされても泣き寝入りしかないのでしょうか」
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▼ワードBOX=高齢者の財産保護支援制度
全国の高齢者(65歳以上)は推計で2542万4000人、うち独居者は373万人(2004年6月10日現在)。福岡県ではそれぞれ98万3971人、18万4442人(05年4月1日現在)。高齢者財産保護の公的支援制度としては、家裁が認定する第三者が財産管理を行う「成年後見制度」と、自治体の社会福祉協議会が財産管理などを支援する「地域福祉権利擁護事業」がある。同県内では成年後見制度の家裁への申し立て件数(取消も含む)は722件(04年)、権利擁護事業の利用者は342人(05年9月末現在)にとどまっている。
(西日本新聞) - 12月6日14時46分更新
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