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2005年10月31日(月) 00時00分

森とむすぶ 木材の『生産履歴』表示 東京新聞

 木材の「生産履歴」を消費者に明らかにしていく動きが、山主や製材業者ら木材業界から出てきた。情報開示し説明責任を十分果たすことで消費者の信頼を得て、国産材などの消費増につなげる狙い。住宅のような高価な商品であっても、その「木」について消費者に説明する機会はこれまでほとんどなかった。業界の反省と意識改革の動きでもある。 (鈴木 久美子)

 静岡県浜松市で、天竜川流域の山林所有者と製材業者、原木・木材販売業者七社がつくる「T・S・ドライグループ」は二〇〇三年から、「出荷証明書」を消費者に発行している。記されているのは、出荷する木材製品の原木の生産地や生産者、樹種・樹齢、伐採日、寸法、伐採者、葉枯らし(切った木を山に寝かせて行う天然乾燥)期間、出荷日、出荷先など生産履歴。

 「日本の山を良くするには、日本の木の良さをしっかり消費者に伝え、消費に結びつけていくしかない」とグループに参加する山林所有者で製材業も営む平野弘さん(59)は話す。

 消費者が国産材から離れ、自給率20%を割る“末期症状”に陥ったのは、木材業界の説明不足も責任の一つという。

 「これまで山主は、山を財産としか見ておらず『欲しいなら売ってやる』という姿勢だった。製材業者や材木屋も、消費者に説明して買ってもらう努力を怠ってきた」

 消費者が、履歴情報を知って何に役立つかといえば「物理的には何もない」(平野さん)が、「情報を開示する生産者の自信と責任感を示すことで、食品同様、安心を生むのではないか」。

 記録はパソコンで管理する。伐採する素材業者が、山から切りだした原木に一本ずつ伐採日や山林所有者などを記したタグをつけ、小型の読み取り機(バーコーダー)に入力した情報をパソコンで集約。製材所でも同様に履歴情報をパソコンに入力していく。

 グループは、月の動きに合わせて伐採時期を選ぶ「新月伐採」の木を扱っている。手間はかかるが、木に虫がつきにくく、割れにくいという。三カ月以上葉枯らし乾燥している点も特徴だ。そういう特徴を伝えるため、出荷証明書を添付する以外に、山の見学・伐採体験会も開く。

 「しっかりとした商品を生産し、説明すればお客はついてくるというのが実感」と、メンバーの原木販売業、榊原正三さん(57)は言う。

     ◇

 業界としても今年三月、製材や木材流通、住宅建設などの業者が「木材表示推進協議会」を発足させた。丸太や製材などに「樹種」と「原産国」、無垢(むく)材か集成材かなど「加工の種類」を表示したマークを自主的につける。

 業者は、有識者や消費者団体などからなる審査委員会の資格審査を受け、協議会の会員となる。伐採地を示す証明書を発行できる所から原木を仕入れていることや、在庫管理台帳を整備しているなど、製造・流通工程で他産地の木が交じらない体制をとることが資格基準。具体的な表示方法など検討中で、会員は約二十社とまだ少ない。実際に表示が始まるのは来年になる。

 事務局を務める全国木材組合連合会は「流通する木材や製材品の少なくとも半分には表示を広めたい」としている。

■業界の動き急 流通まだわずか

 木材の履歴表示は、森林保護や地産地消の動きと重なってここ数年、活発化している。

 きっかけは、環境に配慮した森林経営に対する国際的な「森林管理協議会(FSC)認証制度」。環境団体や林業家などのNPOが基準を定め、日本でも二〇〇二年以来、二十二カ所(約二十六万ヘクタール)が認証された。〇三年には日本でも「緑の循環認証会議(SGEC)」の認証制度が誕生。いずれも違法伐採などへの対応策としてできた。

 国内では、各河川流域や自治体単位の取り組みも出始めた。昨年、愛知県の豊川流域でつくった「東三河環境認証制度」、京都府が今年始めた「ウッドマイレージCO2」(木材輸送に伴うCO2排出量の表示)など、地元産材の利用促進にも力を入れる。

 ただし、こうした制度を経た木材の流通量はまだわずか。多くの国産材には、原木の産地すら示されていない。消費者側も、木製品を購入する機会が食品などと比べ少ないこともあり、表示を知らない人が多い。

 制度への理解を広げるためにも、日本や世界の森林の現状についてもっと情報発信が必要だ。


http://www.tokyo-np.co.jp/00/kur/20051031/ftu_____kur_____000.shtml