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花のお江戸のメーンストリートとして栄え、由緒ある寺社仏閣も多い東京都品川区南品川の旧東海道。装飾レンガ敷きの静かな往来に、「マンション建設強行を許さない」といった看板がたくさん並んでいる。
地元町内会の保科義和会長は「今年の五月にマンションができる、それも高さ五十一メートルって聞いて驚いて。急きょ看板やらを作ったんです」と語る。
保科さんら地元住民が問題としているのは、大手不動産会社が電池製造会社の跡地約五千四百平方メートルに建設を進める地上十六階地下一階のマンションだ。
保科さんらは町内会有志で住民団体をつくり、不動産会社に対し建設計画の見直しを求めている。一番重視しているのは、このマンションが九十三台の駐車場を備え、商業施設も併設するため交通量が激増する恐れがあることだ。
「一方通行路が多く道幅も狭い。人がのんびり歩ける現在の旧東海道の様相が変わってしまう」
約五十一メートルという高さも問題視する。「南北に細長い巨大なついたてができるようなもの。海から陸に入ってくる風がさえぎられてしまう。ビル風発生の可能性もある」
保科さんは以前ゼネコンに勤務しており、マンションは高層になればなるほど利益が出る構造なのは熟知している。都心回帰もあり、京浜急行青物横丁駅から徒歩数分の好立地にマンションを建設するという計画自体は「業者の心理としては分かる」。だが「この場所で十六階建てなんていうのはけた外れ。もっと地域の実情に即した建物を建ててほしい」と訴える。
これに対し、大手不動産会社は住民側に「外周部に歩道状の空き地や広場を設ける。交通量の増加などについては警察、消防などと協議、指導のもとに計画されている。高さ規模の縮小は事業性の見地などから対応しかねる」と説明しているという。
似たようなマンション建築紛争は同区北品川でも起きている。こちらは日本たばこ産業の社宅跡地約千七百平方メートルに、不動産デベロッパーが地上四階地下一階の高さ約十二メートルのマンションを建てる計画だ。
建設予定地は、江戸時代から桜の景勝地として知られる御殿山地区の中。第一種低層住居専用地域に指定されている。
「近隣住民の会」会長の尾谷正信さんは「一種低層なので三階建て高さ十メートルの制限があり、これより高い建物を建ててはいけないはずだが、デベロッパーは建築基準法の例外的規定を使い四階建て建設を進めている」と憤る。
予定地は確かに一種低層地域内にあるが、建築基準法には▽土地の面積が一定以上ある▽隣地境界線から建物を通常よりも離して建てる▽歩道上の空地を設ける▽建ぺい率を下げる−などの要件を満たせば十二メートルを限度として高さ制限を緩和できる規定がある。デベロッパーはこの規定にのっとった計画を作り、高さ制限の緩和を品川区に要望している。同社は「区には建築基準法上の認定申請を行っており、コメントできない」と話す。
現在、住民の会とデベロッパーとの間で話し合いが続いており、同区建築課は「区が仲裁というわけではないが、双方でお話をしていただいている段階」と説明する。
尾谷さんは「用途地域の指定は五年ぐらいで見直される。そのとき今回のような手法で十二メートルの建築物がどんどん建っていれば、十メートルの高さ制限は事実上外れているとして一種低層から地域指定が変わり、いっそう高い建物が建つようになってしまう」と危ぐする。
実は、この地域は地元住民による「第一種住居専用地区存続の請願」が一九九三年の品川区議会で採択されている。
請願代表者だった安田晶子さん(75)はこう嘆く。
「品川区は明らかに中高層マンション建設推進の姿勢。請願の趣旨をないがしろにしているのは、三年がかりで採択を勝ち取った住民と、採決した区議会を無視しているのと同じこと」
都心で頻発するマンション紛争。国土交通省のまとめによると、東京二十三区内の一棟百戸以上の分譲マンション着工数は二〇〇〇年度に約一万二千件。一九九六年度の約四千六百件から急増している。
こうしたマンション建設ラッシュで、市民団体「建設・都市問題市民協議会」の根来冬二事務局長は「建設業者と近隣住民の紛争が増えていることは間違いない」と話す。同協議会への相談件数が多く、対応しきれないくらいだという。
根来氏は、マンション紛争増加の背景として、建築基準法の規制緩和が進んでいることを挙げる。例えば小泉政権発足後の〇二年の同法改正で、採光などに配慮して建築物の上方の壁を斜めに切り取った形にする「斜線制限」が緩和された。地上の一定の位置から見える空の割合を数値化した「天空率」が一定の条件を満たせば、その地域の斜線制限を満たさない建物でも建てられるようになった。
根来氏は「建築基準法の改正で、どんどん敷地ギリギリの大きな建物が建てられるようになり、町並みの圧迫感はひどくなっている。規制というよりも、何でもありに向かって進んでいる」と指摘する。
さらに、これまで都道府県や市区町村が行ってきた「建築確認」が、民間業者にも開放されたことも問題視する。根来氏は「行政から委託された民間の審査を監視する機関がなく、でたらめな建築確認を出していたケースもある」と話す。
■『社会常識による問題提起は重要』
同時に、行政の紛争調停権限が乏しいことについても、「行政には業者に注意する何の法的な権限もない。住民との間で問題になっている開発では、業者側に忠告したりはできるが、業者側に居直られてしまうこともある」と指摘する。
根来氏は、都心部で起きているマンション紛争について、こう憤る。
「政官財が一緒になって、銀行の不良債権処理のために、土地を開発させ、本来、住民のものである町並みを壊している。開発業者の背後には、国民の税金を借りて経営を立て直した大手銀行がいる。国民から借金しておいて、少し景気がよくなったら、地域住民という国民をいじめるのはおかしい」
マンションをめぐる問題に詳しい吉田康弁護士は、「建築基準法などの法律が、建設する側に偏重したルールになっているのは事実だ」と明かした上で「建築基準法に適合した建物を造ることは、違法ではない。このため、裁判になれば、住民の受忍限度の範囲内だと言われてしまう」と現状を説明する。
同時に吉田氏は街づくりの観点から、これからの住民運動の重要性をこう指摘する。
「街として『これはおかしい』という建物については、住民側の問題提起で、八階建てを六階建てにするなど、法律を超える社会常識によって是正されることが大事。誰かが運動しないと社会は変わっていかない。軋轢(あつれき)を歓迎するわけではないが、社会が成長するためには健全なことだ」
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20050929/mng_____tokuho__000.shtml