2005年08月17日(水) 16時13分
高い匿名性、ネットカフェに犯罪死角…自殺サイト殺人(読売新聞)
自殺サイトを利用した連続殺人事件で、人材派遣会社契約社員・前上博容疑者(36)(大阪府堺市)は身元の発覚を恐れ、複数のインターネットカフェから被害者とメールのやり取りを繰り返していた。
ネットカフェは匿名性が高いことから、犯罪に使われることが多いとされ、業界団体は9月の総会で、利用者の会員登録を徹底するよう規約を改定する方針を決めた。
それでも、「監視には限界がある」と関係者は口をそろえる一方、店舗側からは「客に敬遠される」と反発の声も上がっており、自主規制の難しさを浮き彫りにしている。
大阪府警の調べでは、殺害された大阪府豊中市の女性のパソコンに、前上容疑者が利用していた堺市内などの複数のネットカフェとの通信記録が残っていた。店は会員登録制を取り入れており、同容疑者も身分証を示して登録していたが、匿名で利用できるフリーメールのアドレスを使っていたため、身元の特定には至らなかった。
しかし、女性が前上容疑者と交わしていたメールボックスに「(自殺の際は)レンタカーのワゴン車を使う」など、同容疑者の発信メールの一部が削除されずに残っていたことが判明。府警はこれを基に捜査を進め、車を借りていた同容疑者を割り出した。
「前上容疑者はすべてのメールを削除するよう被害者に指示していた。あの消し忘れがなければ、逮捕にこぎ着けられたかどうか」と捜査員は言う。
「フリーメールを悪用されたら、お手上げです」。大阪・ミナミで月1万人が利用するネットカフェの店長は、そう打ち明ける。この店では、以前から通信履歴をパソコンに長期間、保存するなどしている。しかし、同じ対策を取っていた系列店は、自治体のホームページに侵入し、内容を書き換える犯罪に利用された。フリーメールを使った可能性があり、履歴から悪用した人物を確認できなかったという。
こうした不正アクセスや不正請求メールなど、ネットカフェを使った犯罪は増加傾向にある。このため、約1000店が加盟する業界団体「日本複合カフェ協会」(東京)は、昨年、防犯カメラ設置の徹底を求めたのに続き、今回、会員登録を促すよう規約の改定に踏み切る。拘束力はないが、この二つが整えば、犯罪の抑止効果は大きいという考えだ。
ところが、これに反発し、逆に会員登録制度を廃止した店もある。ある店長は「気軽に客に来てもらわないと、他店との競争に勝ち残れない」と本音を語る。
実際、男性客(34)の一人はこう漏らした。「上司の不満を人事部にメール送信した経験がある。ネットカフェなら送信元を特定されない」。別の男性客(21)も「匿名性が高いから利用できる。会員登録が必要なら、使わない」と言い切った。
日本複合カフェ協会は「店舗側の言い分も分かるが、犯罪を野放しにする訳にはいかない」としている。
(読売新聞) - 8月17日16時13分更新
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050817-00000412-yom-soci