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2005年07月04日(月) 17時12分

「はてな」という変な会社ITmediaニュース

はてなのオフィスと近藤社長。記者が取材に訪れた日、オフィスの半分が空席だった。図書館で仕事しているためだ 写真:ITmedia    「合宿いけへん?」——はてなの近藤淳也社長がそう切り出すと、社員の大反対にあった。ブログサービス「はてなダイアリー」など、20万人以上のユーザーをかかえる、たった10人の会社。遊びに行っている暇はない。

 それでも近藤社長は強行した。「きっと何かあるから」。開発者を連れて平日3日間、冬の海を見下ろす宿で過ごした。ひたすらコーディングする以外、やることがなかった。「3日間で5日分くらいの仕事ができた」

 この合宿で生まれたのが、国内初のソーシャルブックマークサービス「はてなブックマーク」。合宿に行くまでの車の中で「何作ろう?」とアイデアを募り、宿でコーディングし、帰ってきた次の日にリリースした。たった4日の早業だった。

 合宿は、頭をクリアにして新サービスを考え、生産性を上げるための試みだった。はてなの社員はこの1年で倍増し、組織としての形が見えてきた一方、新サービスの開発が日に日に難しくなってきていた。「場所を変え、“3日間はこれだけ作って帰ろう”というシンプルさが必要だと思った」

 ユーザーサポートや、既存サービスの細かな改善という連続的な仕事ならオフィスが向いている。しかし、既存のものを否定しゼロから創造する非連続的で破壊的な行為には、オフィスは不適だという。

 その後の合宿でも「はてなRSS」「はてなアイデア」など、続々と新サービスができた。最初は反対していたスタッフも、徐々に合宿の効用を認めてくれるようになった。場所を変えることにハマり、普段も図書館で仕事するスタッフまで出てきた。

 「9月の合宿は、アメリカなんです」。とうとう海外遠征の許可が下りたと、近藤社長は嬉しそうに話す。大好きな旅が、仕事の一部になった。宿の手配から車の運転まで全部1人で引き受けるが「めちゃくちゃ楽しい」という。

●「人がやっていることは、はてなでやる意味がない」

 「何が必要か、常に自分の頭で考えることが必要」——平日に社員の半数を引き連れて合宿するなどという、経営の教科書にはまず載らない発想は、近藤社長の頭から生まれる。成功例を真似しないから、失敗も多い。トライアンドエラーを繰り返す中に、きらりと光る成功がある。「あしか」もその1つだ。

 「あしか」は、はてな開発陣の進行管理ツール。材料は段ボール箱と、コピー用紙の裏紙だ。箱は4つの区画に仕切ってあり、「終わった」「すぐやる」「そのうちやる」「ペンディング」と書かれている。開発タスクは紙に書き、どんどん箱に入れていく。アナログなことこの上ないが、これで十分だという。

 スタッフのスケジュール管理も、ずっとアナログだった。壁掛けカレンダーに、全員の予定を手で書いていた。ある時、「社外からも予定を知りたい」という声が出たため、改善策を考えた。「ライブカメラでカレンダーを映したらいいんじゃないか、とか」

 ここで、スケジュール管理システムを作ろうなどという“ネット企業っぽい”発想に行き着かないのが、はてならしいところだ。「スケジュールシステムを作れと言われると、サイボウズやYahoo!カレンダーを見て、みんなだいたい同じものを作る。でもそんなの、はてなでやる意味がない。サイボウズを使えばいいんだから」

 とはいえ、カレンダーをライブカメラで映すのはさすがに本末転倒ということになり、グループウェア「はてなグループ」に、シンプルなカレンダー機能を実装した。日付をクリックすると、真っ白なコメント欄が表示されるだけ。個人のスケジュール帳と同期する機能もなければ、スケジュールの開始・終了時間の記入欄すらない。

 「これまでカレンダー1枚で良かったんだから。ミーティングの終了時間なんか誰も書いていなかったし、相手のスケジュール帳を埋めるなんて、そんな面倒なことやってない」。システムを作るとなると、いろんな機能を入れたくなるのが人情。そこを一歩引いて考え、本当に必要な機能だけを入れていくのがはてな流だ。

 「他の人がどうしているかとか、よくある製品がどうなっているのか見たら、その時点で思考停止。そうではなくて、自分が欲しいものを自分の頭で考える努力をしないと、いいサービスは作れない」

●「制服って、意味あるんかな?」

 「本当は意味がないのに、みんなが不便しているものってあると思う。そういうのが嫌なんだろうな」——無意味なものを壊してやりたいという衝動が、近藤社長の中にあるという。

 「意味もなく偉そうな人とか、親が偉いだけで威張っていたり金持ちな人が嫌いで。そういう人にゴロニャーンと順応して生きていくか、そういう人の意味のなさを暴いて生きていくかというと、後者の生き方を選ぶ」

 小さいころからそうだった。中学校で生徒会長になった時。初めての会合で「制服をなくそう」と訴えた。「制服って意味あるんかな? 意味分かる人いたら答えてよと聞いたんです。でも誰も真に受けなくて、話がまったく進まなかった」

 はてなの運営にも、この姿勢を貫く。例えば、だらだら続く意味のない会議は、無駄だからしない。毎朝の短いミーティングで意見をシェアし、すぐ行動に移す。きれいなプレゼン資料を1枚作っている暇があったら、コーディングしていたほうがいい。

●「インターネットは、知能増殖装置」

 はてなは、一部ユーザーに“露出狂”と言われるほどオープンな会社だ。ユーザーからの機能改善要望は、採否や進ちょく状況とともに「はてなアイデア」で公開。アイデアを検討する会議は、毎日録音してネット公開している。「会議をポッドキャスティングした企業って、多分世界初」

 アイデアを公開すれば、競合に先を越されるかもしれない。会議を音声配信すれば、発言への批判を受けるかもしれない。それでもはてなは、情報を公開する。オープンにするほど、強くなれるという。

 「情報をオープンにしなければ、自分が進む速度以上には進めない。でも、いったんネットに預けると、色々な人の力が加わって、一気に何倍にもなる。インターネットって、知能増殖装置みたいなところがあると思います」

 はてなのサービスは、ネット上の知識増殖装置——ユーザーのアイデア——に育てられてきた。「ユーザーさんからは、僕たちの想像力の何倍というものが返ってくる。ユーザーと社員も、あんまり分けないほうがいいかもしれない」

●「はてなっぽさ」を残したい

 型破りでスピーディな経営。非常識なまでのオープン性。ユーザーとの距離——そんな“はてなっぽさ”が、会社が大きくなっても続けられるかが悩みだ。

 「企画書にはんこを押してもらわないと何もできないような会社だったら、『はてなアイデア』みたいな訳の分からんサービスが通る訳がない」——少人数でやってるからこそ保てるものがあるのではないかと話す。

 それでも、規模拡大にチャレンジするという。「今のユーザー数やサイトの質のままではいけない。世界に出て行けるサービスにしたい」。“はてなっぽさ”を保ったまま大きくなれるか。挑戦が始まる。

 「はてなが残っていくには、宙に浮いた“はてなっぽさ”みたいなものが強くなっていくことが大事」——はてなっぽさが何かは、近藤社長にもよく分からない。ただ「はてな=近藤淳也」にはしたくないという。「『はてな=近藤』だと、ぼくがいなくなった終わり。ぼくの限界がはてなの限界になってしまう。それは避けたい」

 社長を筆頭にしたトップダウン型の組織ではなく、“はてなっぽさ”という文化を共有し、継承し、大きくしていく、ユーザーまでもを巻き込んだ、対等でフラットな組織を目指す。「はてなという土台が活性化し、どんどん大きくなって、それを使っていろんなスタープレーヤーが生まれてほしい」

 自分の名声には、こだわりがない。「はてなが大きくなって、かなり時間がたってから『あれ? そういえば最初って誰が作ったんだっけ?』という話になった時、『近藤という人らしいよ』と言ってもらえればそれでいい」

 近藤社長は、会社の外でも“後世に続く何か”を残そうとする。自身が発案したサイクリングイベント「ツール・ド・信州」。1998年の第1回は、企画も運営も優勝者も近藤社長だったが、翌年からは選手をやめ、運営に専念した。

 「選手として1等賞になる楽しさも確かにある。でも、次から次に何かが生まれていく土台みたいなものを作ってこの世に残す価値のほうが大きいと思う。自分が優勝することより、ツール・ド・信州が箱根駅伝くらいの国民的イベントになることの方が大切」

●ネットという「パリのオープンカフェ」

 近藤社長いわく、日本人にとってネットは、パリのオープンカフェだという。「パリのオープンカフェでは、大人たちが延々としゃべっている。『いつ仕事行ってるねん!』ってくらいに」——それがパリに住む人々の豊かさであり、人間らしさを獲得する場だという。

 カフェで知らない人と話し込む図は、日本人同士では想像しにくい。しかしネット上ならありえる。「ネットでいろんな人と交流したり、知識を得ている人は出てきている。今まではテレビや本をただ見る、受動的な情報収集の時間だったものが、コミュニケーションに置き換わっているとすれば、それは豊かさを獲得していると思う」

 コミュニケーションが文化を生む。近藤社長は言う。「文化のレベルは、街中であーだこーだ言っている人の会話のレベルによって決まると思う。文化のレベルの高さが感じられなくなっているとしたら、あーだこーだいってる人が少なかったり、まじめに聞いてる人自体がいないからかな、という気がしている」

 はてなはそんな文化を、静かにサポートし続ける。「ぼくたちはノートPCが1台で、何もないところからWebサービスを作れる。たくさんの人に使ってもらって、便利さや豊かさを供給できるようなサービスを、ゼロから生み出していけるんです」

■さらに画像の入った記事はこちら
  http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0507/04/news036.html

http://www.itmedia.co.jp/news/
(ITmediaニュース) - 7月4日17時12分更新

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050704-00000016-zdn_n-sci