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茨城県神栖町の有機ヒ素汚染は、同町木崎地区で、井戸水を飲んだ住民に健康被害が出ていると筑波大付属病院の医師が保健所に連絡し、水質調査を依頼したことから明らかになった。
飲用井戸から検出された有機ヒ素は、自然界には存在しない。同町にはかつて旧日本軍関係の施設があったことから、環境省は毒ガス兵器の残留物質の可能性が強いとみて、原因物質が特定されない段階で医療費を支給する極めて異例の措置をとった。
だが掘削調査では、兵器の残骸(ざんがい)などは出ず、高濃度のヒ素を含むコンクリート様の大きな塊が見つかった。
掘削現場では一九八五−八八年と九三年前後に計三回、土壌の埋め戻しが行われていた。また、有機ヒ素が戦後、殺虫剤の原料として民間に払い下げられていたことから、不法投棄の可能性が高くなった。コンクリート様の塊と一緒に見つかった空き缶の製造年月日から、不法投棄は九九年以降との見方が強まっている。
■生活にも支障
環境省は二〇〇三年に飲用井戸から有機ヒ素が検出されると、即座に緊急措置を決めた。五年間は医療手帳交付者百三十五人を対象に、年一度の健康診断、自己負担分の医療費の全額補助や療養手当を支給する。また周辺に住む三十人にも、初年度のみ見舞金を補助。三年間は、健康状態などの調査協力費を支給している。しかし、期限後については「具体的には決まっていない」という。
住民にとって必要な支援は、医療費だけではない。体調不良で仕事を休まなければならなかった男性や、寝たきりになった女性がいる。長男に脳性まひの症状が出た母親は、パニック障害を起こす長男を預ける場所がなかなか見つからないと訴える。母親は現在、妊娠中。「どんな影響が出るか分からない。生活の問題にも対策を講じてほしい」と話す。
■対応バラバラ
環境省は「緊急措置の主目的は、調査・研究。責任を認めて支援をしているわけではない。原因が解明されるまで、責任や補償については関与できない」と弁明。「事業主体は環境省だが、県に委託している。生活の問題などのきめ細かな対応は、茨城県や神栖町がしてほしい」と自治体に期待する。
一方、茨城県は「生活の問題は、さまざまな部署に管轄が分かれて動きにくいのが現実。国に対して対策を求める要望書は毎年、出している」と機動性の悪さと“国任せ”を認める。
不法投棄の可能性が出てきたことで「環境省が一歩引いた印象はある」と感じながらも、「(有機ヒ素の)製造責任は国にある。国主体という方針からは方向転換はしていない」。
これに対し環境省は「不法投棄だからといってただちに緊急措置をやめるわけではないが、原因が明らかになる前に製造責任と言われても…」と困惑の表情を見せる。
■訴訟も視野に
両者のはざまに置かれた住民だが、補償を求める動きも出ている。
住民六人の代理人を務める弁護士が弁護団を結成。総務省の公害紛争を調整する公害等調整委員会への責任裁定の申し立てや訴訟も視野に入れて活動している。
「国には管理者責任、県には不法投棄を取り締まれなかった怠慢を問う慰謝料や逸失利益の損害賠償請求などを検討中。法廷で争わなければ、行政は動かない」と弁護団の坂本博之弁護士。
中国で遺棄された毒ガス兵器による被害をめぐる二件の訴訟では、東京地裁でそれぞれ国側勝訴と被害者側勝訴と対照的な判決が出された。
坂本弁護士は「国側勝訴の判決理由は、中国に主権が及ばなかったため。神栖のヒ素が旧日本軍の兵器に由来するということが立証できれば、住民が勝つ可能性は十分にある」と自信を持つ。
「私たちの声にもっと耳を傾けて。このまま風化して、泣き寝入りはしたくない」。行政側に住民の女性の願いは届くのだろうか。
http://www.tokyo-np.co.jp/00/kakushin/20050530/mng_____kakushin001.shtml