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「うそだと思うなら、ここで確かめれば」。待ち合わせた喫茶店で、鳥打ち帽姿の若い男が言った。インターネットオークションIDの売人だ。言葉に従い、持参のノートパソコンで男が示したIDとパスワードを入力すると、会員ページに入る。使えるIDだった。
ネットオークション詐欺の被害者の知人が、客を装い接触した。ネットの掲示板には「ID大量入荷」などと“広告”が載る。人づてに紹介された男の提示額は、ID10個で100万円。IDとパスワード、住所、氏名がセットになったデータを100件以上持っていた。値引きを持ちかけると「液晶テレビ三つで元は取れる。嫌ならいい」と言われた。IDは詐欺に使うものと、男は決めつけていた。もちろん買わなかった。
警察庁によると、04年に検挙されたネットオークションの詐欺事件は259件。警察への相談件数は1万3535件にも上る。不正取得したIDを使うなど手口の巧妙化が摘発に至らない事件を増やしている。
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ネットオークションは98年に楽天、99年からヤフージャパンが始めた。家電製品から車、衣料品まで、双方とも常時500万件を超える出品がある。リサイクルの意味もあり、自宅にいながら安く手軽に買えるため、利用者は増える一方だ。最大手のヤフーオークションの昨年の落札総額は、約5700億円に達する。
登録するとIDが発行される。出品者の情報として、出品歴と、落札者による評価が示される。例えば「70人が『良い』、2人が『悪い』、8人が『どちらでもない』の評価」と表示され、信用度を推し量る。しかし、これはあくまでIDに対する評価に過ぎない。
だからIDが狙われる。評価が高いIDを乗っ取り、入金先の口座などを書き換える「成りすまし」という手口だ。関係者は「女性服ばかり出品していたIDで、DVDやパソコンを大量出品し始めた場合は間違いなく詐欺」と指摘する。
複数のIDを「サクラ」として悪用する手口もある。3月に京都府警が詐欺容疑で摘発した中古車業者は、車の走行距離を大幅に巻き戻して出品し、約300台を売りさばいた。複数の「サクラ」のIDで入札しては値をつり上げていた。
IDは、パスワードさえ分かれば他人でも使える。メモに残している人などは狙われやすい。しかし、100件単位で持ち歩く売人はどうか。オークション運営会社などからの情報漏れを指摘する声もある。
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ヤフージャパンは「トラブル口座リスト」を公開、限度額50万円(年1回)の補償制度も設ける。昨年7月以降、新規出品者に登録に必要な暗号を郵送することで、住所確認を始めた。内部からの情報漏れは「ないと確信している」と話す。
しかし、被害は止まらない。今年3月には「出品者のチェックが不十分。大量の被害者が発生するシステムを放置している」と、被害者572人が同社に総額1億1557万円の損害賠償を求め、名古屋地裁に提訴した。原告団長の水野昇さん(53)は、カーナビの代金18万円の被害に遭った。出品者の「自宅」の固定電話で話せたため安心したが、後で訪ねると「自宅」はもぬけの殻だった。「今の身分確認方法では被害はなくならない」と、運営側の対策の甘さを指摘する。
手軽さの裏に潜む危うさ。最近では、悔しい思いをした被害者が、逆にだます側に転じた例もあるという。
http://www.mainichi-msn.co.jp/it/24hour/news/20050422k0000m040151000c.html