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2005年01月06日(木) 00時00分

確かなあした 競売物件でトラブル  “落札権利”だけで分譲 東京新聞

 「両親と一緒に住める家を建てたい」と土地の売買契約をかわし、代金も全額支払ったのに、所有権が移転できなかった−。愛知県に住む会社員男性(45)が本紙に窮状を訴えた。土地は不動産業者が競売で落札する権利を得て、“新規分譲”した物件。実は業者が裁判所へ代金を納付せず、落札そのものが成立していなかった。支払った購入代金はまだ一部返金されただけ。専門家の間では、落札以前に“分譲”する業者側の販売方法を問題視する声もある。 (岩佐 和也)

 「駅への利便性バツグン!」「理想のマイホームを実現しよう」。昨年六月中旬、業者が出した新聞の折り込みチラシには、そんな活字が躍っていた。「競売落札」の文字も。

 愛知県三河地方の高台にある約千三百平方メートルの土地。売り出したのは神奈川県小田原市の不動産業者で、六月上旬に競売で落札する権利を得たばかりだった。

 男性は早速、現地に足を運んだ。スーツ姿の営業マン数人が出迎えた。「新規分譲」などと書かれたのぼりが何本もはためいていた。

 市街地に近く、高台から街を見下ろせる土地は魅力的に映った。七区画のうち三区画を購入しようと思ったが、営業マンは「もう一区画買ってもらえれば、値引きしますよ」。結局、四区画約五百八十平方メートルを約千三百万円で購入する契約を交わし、四日後には購入代金全額を支払った。「値段も手ごろで、将来的に家を建てるには、絶好の場所と思った」という。

■代金納付せず業者が廃業

 ところが、同月中に終わると聞いていた所有権の移転手続きが行われない。翌七月上旬、業者から「物件説明と現状が著しく異なっている部分があり、裁判所に執行抗告を提出しているので、(裁判所への)代金納付が遅れている」と連絡があった。

 七月下旬になると、その業者は突然、廃業。同じ経営者が営む東京都の別の業者が業務を引き継いだが、結局、競売物件の落札さえ成立しなかったため、土地の売買契約はご破算となってしまった。

 「まさかこんなことになるとは」。男性は小田原、東京の両業者と交渉。違約金を含む約千五百万円を二〇〇八年二月までに約四十回の分割で返金してもらう合意書を、十一月下旬に交わした。

 だが、これまでに返金されたのはわずか十万円。「そもそも、なぜ分割なのか。支払った代金はどこへ消えてしまったのか」。その後も、男性の不信感は募るばかりだ。

 小田原の業者を管轄する神奈川県建設業課宅建指導班によると、この業者をめぐっては、顧客から土地代金を受け取りながら、転売しようとした競売物件の落札が実現せず、トラブルになったケースが相次いでいる。愛知県のケースを含め、千葉や宮城、三重県などで計二十五件。手付金を含め、土地代金として顧客から受け取った総額は約六千三百万円にのぼるが、いずれも所有権は移転されなかったという。

 同宅建指導班の担当者は「二月ごろから業者への苦情が出始めたので調査に乗りだした。免許取り消しなどの処分を検討していたが、業者は七月に突然、廃業してしまった」と話す。

 一方、業務を引き継いだ東京都の業者も十一月、都から免許停止の行政処分を受けている。同じように、買い主から売買代金を受け取りながら、二年以上も所有権の移転登記をしなかったことなどが処分理由という。

 こうした業者の行状を知った男性は、「だまされたのでは」と思い、警察にも相談に行った。だが、返答は「業者側に代金を返金する意思がある以上、事件性はない」。相手にしてもらえなかった。「支払った代金は本当に全額返してもらえるのだろうか」と不安な毎日を過ごしている。

 不動産取引に詳しい浅井岩根弁護士は「そもそも不動産業者は、自社の所有になっていない物件を売り出すことに問題がある。競売物件に限らず、所有権を自社に移転させてから売りに出すべきだ」と指摘する。

 同時に「土地の売買では、手付金はともかく、代金の支払いは所有権移転の手続きと同時進行で行うのが常識。買い主は代金を支払う際に、手続きが行われているか確認する必要があったのでは」と、消費者側にも慎重さを求める。

 本社の取材に対し、小田原の業者は「競売物件を落札できなかった理由を報道機関に説明する必要はない。顧客とは、受け取った代金を分割で返金することで合意しており、既に返金を始めているので問題はない」と話している。


http://www.tokyo-np.co.jp/00/kur/20050106/ftu_____kur_____000.shtml