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2004年12月27日(月) 00時00分

銀座駅読売新聞

駅が夕方のラッシュを迎えるころ、銀座のシンボル・和光の時計塔が美しくライトアップされる。カメラ付き携帯電話を向ける姿も 大人の交差点への階段 東京都中央区

 改札を出て薄暗い階段を上ると、すれ違う人波の先に小さな四角い空が見えた。地上に出れば「花のギンザ」の真ん真ん中。4丁目交差点である。だが街の華やかさとは裏腹に、交差点付近の階段はどこも狭苦しい。銀座線が開通して駅ができた1934年から、ほとんど姿を変えていないのだ。

 62年の秋分の日。高知生まれの山本健一さん(56)はその階段を上った。同じ年の5月に上京。渋谷で新聞配達をしながら中学に通っていた。当時は日曜日にも夕刊があり、休みは年に数回の休刊日だけ。東京に来て初めての休日に向かったのが、銀座だった。

 「故郷で見た(石原)裕次郎の『銀座の恋の物語』。あれに出てくる時計台が見たくてね。もちろん地下鉄も初めて。大冒険でしたよ……。忘れられない1日だなぁ」


昔のビルの面影を残して装いを新たにした交詢ビル

 後に「山本一力」の名で直木賞作家となった山本さんは、タウン誌『銀座100点』に寄せたエッセーに、銀座を歩いたときの興奮をつづっている。〈高知の同級生に、この姿を見せたいと思った。映画のシーンと同じことをしている自分が、なんとも自慢に思えた〉

 老舗そば店「よし田」の店員、高山友恵さん(20)にも「忘れられない1日」がある。

 山形県新庄市の中学を出て住み込みで働き始めたが、友達もできず、仕事は覚えるだけで精いっぱい。疲れ切って布団に倒れ込むと、窓越しにホステスと酔客とのやりとりが聞こえてくる。「ありがとうございましたぁ」「じゃ、またな」。そんな夜の街のにぎわいが、いっそう心細さを募らせた。

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 先輩の家に遊びに行き1人で地下鉄に乗って帰ってきたのは、ちょうどそんなころだ。駅には着いたが、あまりの出口の多さに迷った。目の前の階段を上って地上に出たものの、そこは見覚えのない大きな交差点。思えば、銀座を歩くのも初めてだった。

 交番で聞き、道行く人に尋ねて、なんとか店にたどり着いたのは数時間後。「でも、ホッとするより、1人で帰って来られた満足感のほうが大きかった。この街で自分は変われるかもしれない。頑張ろうって思いました」

 駅から銀座へ続く狭い階段。それは、大人になるための階段なのかもしれない。

http://www.yomiuri.co.jp/tabi/world/station/sta04122701.htm