2004年12月21日(火) 00時00分
今年読んだ中で一番心に残った小説は打海文三(うちうみぶんぞ… (東京新聞)
今年読んだ中で一番心に残った小説は打海文三(うちうみぶんぞう)さんの『時には懺悔(ざんげ)を』(角川文庫)だ。近作『裸者と裸者・上下』(角川書店)で、北関東に割拠する軍閥が殺し合う破天荒な近未来小説を書いた作者の初期作品▼辛口の辣腕(らつわん)編集者で鳴らした故安原顕さんが「七年ぶりに再読し、あらためて感動した。昔よりさらに心震えたくらいだ」と解説するのは珍しい。「人間嫌いになってすでに久しい。最も嫌いなのはヒューマニズムや人類愛である」といってはばからぬ安原さんが「手もなくやられた」と絶賛▼『時には…』はミステリーである。未読の読者のためにストーリーの紹介ははばかるが、主人公は二分脊椎(せきつい)症と水頭症を病む重度の障害児。その圧倒的な存在感に、海千山千の探偵や犯罪者、刑事、親たちが翻弄(ほんろう)され、やがて心洗われる▼二十日付朝刊一面に記事二本。一つは「わが子の治療を拒む親 染色体異常、神経疾患…」とある。打海作品と同じ二分脊椎症の赤ちゃんで、親が延命手術を拒んで自宅に連れ帰り、死亡したケースも▼もう一つは一連のNHK不祥事で「海老沢会長辞めず 特別番組に出演し謝罪」の記事。日曜夜九時から突然割り込み、二時間以上を費やして会長の責任回避と弁明を聞かせた討論の詳報だ▼オリンピックの陰にかすんだが、八月のNHKテレビの終戦特集は秀作ぞろいだった。こういう番組のためなら受信料は払うが、自家中毒の「時には懺悔」のような番組は願い下げだ。そんな暇があれば、不幸な障害児たちの危難を報ぜよといいたい。
http://www.tokyo-np.co.jp/00/hissen/20041221/col_____hissen__000.shtml