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私が関与したのは「通帳おろし」と言われる犯罪です——。朝日新聞に寄せられた手紙はそんな書き出しで始まる。差出人は関西出身の男(39)。住所は「名古屋拘置所」。中国人グループが盗んだ通帳で14件、約3000万円(未遂も含む)の不正引き出しに関与したとして詐欺罪などに問われ、今春、実刑判決を受けた。「服役を機に、話せることを明らかにしたい」。15通の手紙でグループの組織の実態、犯行の手口などを「告白」した。
●中国人グループ
男は、盗んだ通帳で金を引き出す「出し子」の手配と指導役であり、実行役でもあった。
グループは日本人を道案内役の運転手に雇い、マンションを狙う。持ち出すのは通帳類だけではない。母子手帳、保険関係の郵便物、NTTの請求書、自筆メモ……。名義人になりすますためだ。現金や貴金属には手を付けない。
中国人の犯罪グループは、複数の「ボス」の下に小グループがあり、グループ同士が手を組む。男が所属したグループは日本人「出し子」をそろえ、他の窃盗グループからの引き出し依頼も請け負った。保険証を偽造するグループもいる。
通帳を盗み出す実行部隊は4〜5人単位。中国人留学生らに「技術講座」を開き、開錠の手口などを教え、「犯罪予備軍」も育てる。
名古屋市内の飲食店経営の女性(58)は昨年4月、通帳が盗まれ、約800万円が引き出された。タンスに入れた約10冊の通帳はカバーだけが残っていた。「探した感じではなく、そこ(通帳)を目当てにまっすぐに来た感じだった」という。
愛知県警は昨年、男が所属したグループのうち、中国人5人、日本人10人を逮捕した。が、「氷山の一角。逃れた者は別の組織で活動している」と手紙に記す。
●「出し子」
集合場所は大抵、ファミリーレストランだ。
男は、数人の男女に一人ずつ封筒を渡す。盗んだ通帳と印鑑、保険証、そして通帳の名義人の氏名と住所、電話番号に生年月日、干支(えと)が書き込まれたメモ。男女はメモの内容を復唱したり、書いたりして覚え込む。名義人の筆跡も何度も書いてまねる。
男は銀行や郵便局を指定し、引き出し額を指示する。報酬は「説明役5万円、出し子が引き出した場合はその5%、自らやれば20%」と明かす。
「出し子」を集めるのに頼ったのは主に闇金融だ。「『1日でこれだけもうけた』と、財布の中の札を見せれば、借金生活の人間はあっという間に落ちる」。集めた中から通帳の名義人と年齢に近い人を選んだ。
通帳の預貯金を移す口座の開設に利用したのは若い暴力団組員だ。偽造した身分証を渡し、短期賃貸マンションの住所で口座を作らせた。
暴力団周辺者から「保険証が欲しい」と頼まれたこともある。1枚5万円。消費者金融の無人契約機を使えば、保険証1枚で100万〜150万円は詐取できるという。
資金難に悩む暴力団と中国人の犯罪グループが手を組む。「暴力団関係者は不良中国人を、中国人側もそんな日本人たちを利用する。ギブ・アンド・テークだ」と男は言う。
◇
〈「通帳おろし」による被害〉 全国銀行協会が正・準会員(現在180行)に行った調査によると、02年度に発覚した不正引き出しは1294件、総額41億6500万円。被害が増え始めた00年度に比べて倍増した。身分証明書の提示を定めた本人確認法が03年1月にできた後も被害はやまず、同年度も674件、19億5800万円に達した。郵便局も同様で、日本郵政公社によると、03年度の被害は1067件、23億5200万円に上る。
(12/09 10:43)