悪のニュース記事

悪のニュース記事では、消費者問題、宗教問題、ネット事件に関する記事を収集しています。関連するニュースを見つけた方は、登録してください。

また、記事に対するコメントや追加情報を投稿することが出来ます。

記事登録
2004年10月20日(水) 00時00分

宝くじ収益金の使われ方 当たってもないのにナイアガラ 東京新聞

 和歌山県の自治体の首長や町村議長が、サマージャンボ宝くじの収益金で毎年行っていた海外旅行は、報道されたためか、さすがに今月の豪州旅行は中止された。地方議員の場合、報酬以外の政務調査費や海外視察については“監視の目”が厳しくなる中、宝くじの収益金は使い道が見えにくい便利な“第4の財布”ともいえる。実は、この財布、使われているのは和歌山ばかりではなさそうで…。

 「宝くじの金で海外旅行行っとるのかと非難の電話が相次いでかかってくる。参加予定の町村長や議員先生も辞退したので、二十三日からの豪州視察旅行は中止になった」。旅行を主催する財団法人・和歌山県市町村振興協会の田中徹事務局長は疲れ切った声だ。

 田中氏は「一九九八年から町村長や議員に見聞を広めてもらおうと始まった。これまでドイツ、フランス、スペインなどに約五十人が行っている」と明かす。

 やり玉に挙げられた昨年の旅行先はカナダ、アメリカ。十一月十五日から二十三日の日程で研修目的は「行政サービスのIT化、廃棄物のリサイクル」など七項目にわたり、町村長三人、議会議長四人など計九人が参加した。旅行会社が作成した「ご日程表」には、カナダのトロントでごみ処理場、ニューヨークで職業訓練センター、シカゴでのホームレス子女の保護施設など視察の項目はある。

■建設予定ない図書館を見学

 見学施設にホワイトハウス、国防総省もあるが、同行した田中氏は「外から見ただけ。百聞は一見にしかずと言いますし」と反論し、「ワシントンの国会図書館の最新式蔵書システムは見学できた」と強調する。「視察した町村に図書館建設計画が?」とたずねると「特にないですが…」。

 八泊九日一人八十万円、ホテルもシェラトン、ハイアット、ウェスティンと一流ぞろいだが、「確かに負担分はレストランで飲むジュースぐらい。しかし、パスポートを盗まれるようなところには泊まれないし、超が付く高級ホテルじゃない」と言葉を強める。

 参加した町長は「公金を使っての海外視察に批判があるのは確かだが、昨年の視察は高齢者雇用の側面など、町づくりに大変参考になった」と強調し、「純粋に観光だな、と思ったのはナイアガラの滝と自由の女神くらい。批判があるからといって今年の視察を中止すれば、かえって『やっぱり遊びなんだ』と思われかねない。個人的には今年も行くべきだと思うがね」と協会の判断に不満げだ。

 地方議員には議員報酬のほかに、調査や資料購入などに使うための“第二の財布”「政務調査費」がある。しかし使途が不透明と批判され、全国で訴訟が相次ぐ。“第三の財布”的な海外視察も、住民意識の高まりで、監査請求や訴訟の動きが全国で起きている。

 そこで登場したのが“第四の財布”ともいえる宝くじの収益金を使用した海外研修だ。各都道府県にある市町村振興協会の運用益から研修費が支出されるシステムで、税金から支出される海外研修費とは違い、市民オンブズマンなどの監視から逃れる“隠れみの”になる。和歌山の場合も、昨年度は約六億円が県から協会に市町村への貸し付け事業の積立金として交付され、視察費用はその中の研修事業費から充てられた。

■熊本では結局追及を断念

 くまもと・市民オンブズマン事務局の杉本由美子事務局長は「三年前、(宝くじの収益から支給を受ける)熊本県市町村振興協会の資金で、首長や議長が海外旅行をしているとのうわさがあった。確かめようと、協会に詳細な研修内容などの情報開示を請求したが却下された。

“お遊びの海外旅行”という裏がとれなくて、追及をあきらめざるを得なかった」と悔しがる。

 一方、市民オンブズマン福岡(児島研二代表幹事)は実態解明に成功している。ある町職員から内部告発があったからだ。

 児島氏は「福岡県市町村振興協会は財団法人として、予算・決算書、活動報告などを県に上げる義務があるが、海外研修費の総額といった数字は分かっても、旅行の中身は分からない。観光旅行という実態は、内部告発がなければ分からない」と話す。

 同協会は九一年度から市町村長や議長への海外視察助成金を交付してきた。海外視察への批判が高まったことに加え、他の助成事業を始めたことから財源が不足し九九年度に中止。ところが「議長らから復活を求める声が相次ぎ、翌年からこっそり再開を試みた」(児島氏)。米中枢同時テロなどもあり、二〇〇二年度から本格再開され、本年度も十人分八百五十万円の予算が組まれている。

 児島氏は「和歌山県のケースとまったく同じ。発覚していないだけで、九州では福岡以外でも盛んに行われていると聞く」と指摘し、問題点を指摘する。

 「海外視察を主催する市長・町村長会などは視察の意義、正当性を主張するが、ではなぜ、市民に秘密にして出かけるのか。本当に視察が必要なら、市民から見えにくい宝くじ収益金ではなく、各自治体の議会で議論して支出すべきだ」

■まじめな研修強調する県も

 一方、岡山県市町村振興協会は海外研修の必要性を堂々と主張する。九八年から収益金を使った海外研修を実施していたが、「収益金は現在、地方分権や市町村合併などの県内研修で使われ、海外研修は二年前から休止している。事態が落ち着けば再開したい」(正富博行事務局長)。

 和歌山、福岡両県とは違い、こちらの海外研修は市町村の中堅職員が対象だ。正富氏は「現地でのスケジュールもびっしり。帰国後に報告書の提出も義務づけられている。海外研修は批判を受けやすいが、国際化社会へ向けた勉強として必要だ。首長や議長の視察とは中身が違う」と言い切る。

 日本大学の岩井奉信教授(政治学)は「政務調査費や食糧費から海外旅行の旅費を捻出(ねんしゅつ)すると、『税金で遊びに行って』という批判が起きる。オンブズマンなどからの追及を逃れられる宝くじの収益金使用はその抜け道だ」と指摘。その上で、「和歌山の視察中止は『やましい旅行』の証拠だ。道理のある視察なら堂々と公費で出せばいい。市民がチェックできない資金を使った研修は、市民に説明できず、信頼を損なう。宝くじの収益金は限りなく公金に近い。『税金じゃなければ問題ない』という意識が“アリの一穴”になり、地方分権の動きが阻害される。海外視察の裏側には、既得権を守ろうとする地方議員、首長のいじましさが透けて見える。そろそろ公私のけじめを覚えるべきだ」と警告する。

 今回、和歌山県の問題を指摘した同県中辺路(なかへち)町議の川崎五一氏は「昨年、議会に海外視察の承認が諮られたとき、資金の出どころが協会との説明を受け情報公開条例で請求しただけ。不審だからとやみくもに情報公開を求めても財団法人の不透明な支出を見つけるのは難しい」と明かしながらこう提案する。「請求した公文書のタイトルは『財団法人県市町村振興協会主催の海外視察研修に関する一切の資料』。全国各地にある協会の同様の資料を請求すれば、同じ穴のむじなはまだまだ出てくるのでは」


http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20041020/mng_____tokuho__000.shtml