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2004年10月14日(木) 00時00分

『自営』より『自衛』が大事 『貸し手責任みじんもなし』 東京新聞

 経営再建問題で大手スーパー、ダイエーが産業再生機構活用を受け入れた。民による自主再建を主張したが、主力三銀行は、同機構活用を迫り続けた。だが、支援に手を挙げる企業があるのに、同機構活用に固執する銀行の姿は、「ライブドア」が参入を表明したのに、合併を進めようとしたプロ野球界とも重なる。民による再生を固辞し続けた銀行の「ご都合主義」とは−。

■「ライブドア参入拒絶と同じ感じ」

 「民間支援の導入に反対する銀行の姿勢はまるで、合併話の際にライブドアの参入を拒絶したプロ野球界と同じ。若く新しい力を信用しない点で通じるところがある」

 ダイエーホークスの「応援感謝セール」の垂れ幕が下がる東京都目黒区のダイエー碑文谷店に買い物に来ていたクリーニング店主(63)は、銀行の態度に不満な様子だ。

 「ダイエーと銀行の役員同士の話し合いを見ていると、結局、自分たちは豪邸に住んで送り迎えされるうまみが捨てられないんだな。店で働く人たちや、スーパーを頼って生活している地域住民への視点はまったくない」と消費者無視の再建劇にもくぎを刺す。

 別の自営業者(51)は「もともと銀行が金を貸したから借金が大きくなった。交渉を見ていると、UFJの頭取はそっくり返っているが、当時の査定基準はどうだったのか。貸し手責任をみじんも見せずごう慢な態度はいかがかと思う」と顔をしかめる。

 同店一階にはUFJ銀行祐天寺支店のATM(現金自動預払機)もあり関係の深さをうかがわせる。

 近所の主婦(50)も「UFJ銀行は金融庁から告発されて強制捜査もされたのになんか威圧的な感じね。機構活用は、税金使うって聞こえるから、消費者の立場から言えば大反対」と主張する。一方で米流通大手のウォルマートなど民間の参入に対しては「衣料品はダイエーの商品と近所で分かっちゃうから買わない。けど米国の良い品が入ってくれば話は別。碑文谷に外資スーパーは似合うんじゃないかしら」とにっこり笑った。

 主力のUFJ、三井住友、みずほコーポレート各行は不良債権処理に必死だ。特にUFJは金融庁による検査忌避問題で今月七日、刑事告発されるなど不祥事で動揺している。そんな中で産業再生機構の活用は、三行で八千億円を超えるダイエー向け債権が「正常債権」に“化ける”だけに譲れない。ダイエーの同機構活用の前に、銀行の思惑通りになったのが、マンション分譲大手の大京だ。

 「金融情勢の変化から現在の再建計画以上のスピードで、不動産の含み損の処理を求められた」。先月末同機構の支援決定後、記者会見した大京の山崎治平社長はこう話した。その言葉の裏を、作家の江上剛氏は「バカにするな、というのが本音だろう」と読む。

 同社に対しUFJなど主力四行は一昨年、四千七百億円に上る金融支援を行い、再建に乗りだした。今年三月期には黒字決算となり、再建は順調に進んでいた。が、同社に有利子負債が多いことなどもあり、UFJなどの意向で機構入りが決まった。

 「これまで、旧三和銀行(現UFJ)から大京に来た役員は、三和に対して文句も言わなかった。機構入りの背景には、三和が大京の債権を甘く見積もったこともある。大京にすればなんで、という気持ちだろう」と江上氏は話す。

 実際、大京グループのある幹部はつぶやく。「三和銀行の不動産部門とまで言われてきたのに、銀行が沈没するのを逃れるために機構入りする。企業を育てる本分を捨てて債権回収銀行になった。身勝手だ。やりきれない」

■当初は機構の利用に消極的

 経営評論家の梶原一明氏は「ダイエーには看板が消えるのが嫌だとか、自由経営ができないというエゴもある」と、一義的にはダイエーに問題があることを指摘した上で、一連の銀行側の対応について批判する。

 昨年四月に同機構が発足したが、主力三行はその活用には積極的だったとは言い難い。同機構活用の要求をしたのはこの八月だ。梶原氏は「金融機関が機構を利用することに当初消極的だったのは、金融庁の検査により、グレーゾーンの債権が不良債権に認定されることを避けたかったからだ」とその理由を説明する。

 江上氏も「銀行が処理を先延ばししたのは、ダイエーを処理すると、これまでは銀行自体の問題になったからだ」と同調する。

 「主力三行は、ダイエーの高木社長の手腕に不満を持ちながらも、彼をかついできた」(梶原氏)のが実態だ。主力行は二〇〇一年には、ダイエーに千二百億円を金融支援し、翌年には債権放棄など五千二百億円の支援をしている。いわば問題の先送りもしてきた。

 梶原氏は「主力行は、債権放棄をして、再建計画を承認したのに、今になって再生機構の活用を急ぐ。再建がうまくいっていないからだが、銀行の責任もある。経営陣を同社に送り込みながら、それが機能しなかった。今まで何をしてきたのか。銀行の統治能力の問題でもある」と姿勢を批判する。

 これに対しUFJは、機構入りを求める理由について「三度目の金融支援でもあり、再生計画の確実性と透明性からも、機構の活用が必要と考えている」と説明する。

 主力三行が、今になって同機構活用に大きくかじを切った理由として、梶原氏が指摘するのは、UFJの問題だ。同行の貸出債権全体に占める不良債権比率は約一割と高い。「同行は経営統合問題を控え、負債を増やしたくなかった。この問題がなければ、ダイエーへの対応は、また違ったかもしれない」

■「竹中プランのあおりくった」

 江上氏は、金融界の問題にも触れる。「ペイオフ解禁の問題もあるし、竹中(平蔵)経済財政・郵政民営化担当相が打ち出した『金融再生プログラム』では、早期の不良債権処理をうたっており、その日程に沿って銀行は動いている。その流れの中で、銀行の見通しの見誤りであおりをくったのが、不良債権の代名詞であるダイエーだった」

 エコノミストの紺谷典子氏はその金融行政当局を「もともと主力行は不良債権処理方針は現状維持で、ダイエーも利益が出だしていた。それが急激に変わったのは竹中大臣が金融機関に国際競争力をつけさせると称して、不良債権の損失の上積みを求めたから。機構活用は結局、税金を使って外資に大もうけさせるだけ。責められるべきは、竹中氏の政策そのものだ」と批判する。

 だが、江上氏は銀行側の身勝手さを指摘する。「UFJがこけたことで、銀行側は今になってあわてている。ただ、今はダイエーがつぶれても、少なくとも自分たちには致命的な影響がないところまで、処理を先延ばしにしてきた。機構入りで終われば、それでいいし、外資が入るなら、そこに金を出すだけ。ダイエーは墓場に行ってもいいというのが本音だっただろう」


http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20041014/mng_____tokuho__000.shtml