2004年10月14日(木) 00時00分
オレオレ詐欺を防げ(下)口座売買に捜査の壁ATMの操作画面で注意を呼びかけるテロップを流している=水戸市の水戸信用金庫事業部で(朝日新聞・)
「オレオレ詐欺」事件で、県警がこれまで実行犯を逮捕したのは1件だけだ。なかなか摘発できないのは、なぜか。そこには口座開設を巡る法律の壁がある。(木村聡史)
県警によると、オレオレ詐欺事件が起きると、警察は金の受け渡しの唯一の接点である預金口座に注目して捜査するのが一般的だ。
架空名義の口座による犯罪が増えたため、03年に金融機関顧客本人確認法が施行された。金融機関は、口座開設にあたって身分証明書の提示を義務づけている。
だが最近は、本人名義で堂々と口座を開設し、それをインターネットなどで売買する。オレオレ詐欺に使われたとして問いつめられても「通帳を落とした」としらを切り通すケースが増えているという。ホームレスや多重債務者の個人情報を使うこともある。
口座売買自体を禁止する法律はないため、転売目的で口座を開いたことが分かれば銀行に対する詐欺となる。
金融庁によると、ふだん使っていた口座を売買すると、ほとんどの銀行で採用している「譲渡、質入れをできない」という全国銀行協会でつくる普通預金規定に違反することになり、強制解約の対象になる。だが、刑法上の罪には問われない。県警捜査二課は「怪しい口座はあるが、それがオレオレ詐欺名目であることを立証するのは困難」という。
こうした状況を受け、同庁は、口座の売買自体を禁止することを検討している。
◇
県警捜査二課は、オレオレ詐欺に使う目的で金融機関の通帳とカードを作って不正に売買したとして、詐欺容疑で逮捕した数人から、犯行グループの特定を急いでいるという。
◆金融機関も対策に知恵◆
県警や金融機関は、どんな対策を取っているのか。
各金融機関は、現金自動出入機(ATM)の横に防犯シールやポスターを張り、窓口で多額の振り込みをする客に対しては用件を聞くよう行員らに指導している。口座を開設後、入金が少額のままの状態が続いているなどオレオレ詐欺目的の疑いがある場合には、強制解約や利用停止措置をとることもある。
県信用組合では、振り込み依頼書の振込先の住所が不明で、名前を片仮名(犯人は電話で漢字まで言わないことがあるため)しか書かない客には詳しく事情を聴く−−といった対応シートを作成している。
県内に支店・出張所が143ある常陽銀行は、4〜9月に水際で食い止めた例が約60件あった。多くは窓口からの振り込みで、「ATMからの振り込みを防止する新たな対策が必要」という。
県警生活安全総務課は各金融機関に対し、ATMの操作画面に注意を促すテロップを表示するよう協力を求めている。
水戸信用金庫では全82店舗で、JAバンクは全271店舗で表示している。常陽銀行は表示が9月までという期限つきだったため、いったんやめたが、今後、全店舗で再開する予定だ。
鉾田、真壁両署は電話機にはる防犯シールを管内の全世帯に配った。高萩署は、運転免許更新時の講習で被害の現状や代表的な手口などを説明して注意を促している。
県警捜査二課は、(1)誰でもだまされる可能性があることを自覚する(2)トラブルが起きたら1人で解決しようとせず、警察でも家族でもまず誰かと連絡をとる(3)警察官や弁護士が示談金を求めることはない(4)示談するにしても早急に金を振り込む必要はない(5)ATMだけを指定する振り込み方法はない−−などを注意するよう呼びかけている。
「肉親を思う気持ちゆえ信じやすい。1度信じると、『息子のはずだ』という考えから抜け出せなくなる。『自分は大丈夫』という考えも危険。家族間の情報交換を密にすることで、トラブルを抱え込まず、すぐに相談し合える環境をつくることも大切だ」と常磐大学の諸沢英道理事長(被害者学)は話している。
◆心の隙突く巧妙手口◆
「『オレオレ詐欺』は知っているけれど、自分とは関係ない」「家族の声を聞き間違うはずがない」。そんな心の隙(すき)を「オレオレ詐欺」は突いてくる。
今年2月のある日、午前10時ごろ。水戸市の女性(56)は自宅で1人、洗濯物を干していた。そのとき、電話が鳴った。2台の電話機のうち、親しい人しか知らない家族用の電話だった。
■
相手「あっ、お母さん?」
女性「Xちゃん?」(長男=20代会社員=の愛称)
相手「うん」
長男は午前7時半に出勤していた。この時間は会社にいるはずだ……。
女性「どうしたの、こんな時間に」
相手(声を荒らげ、焦った様子で)「友達が事故を起こした。友達と一緒なんだけど、保証金やらでお金が必要なんだ。払ってやりたいんだけど手持ちがなくて……」
女性「すぐ必要なの?」
相手「うん、すぐ振り込まないとだめなんだ」
■
この瞬間。女性は「あれっ」と思い、電話を切ってしまった。「すぐに振り込め」だなんて、おかしい。
でも、「本当に長男だったら」という思いも消えない。「あっ、お母さん」という始め方、「うん」と返答する間の取り方や声の強弱は、まさに長男だった。
確認しようと長男の携帯電話に電話してみた。話し中だった。「むやみにかけてこないで」と言われたこともあり、会社にはかけづらい。「やっぱり長男なのか……」。不安は募った。
■
被害を免れた女性はいま、思う。「携帯が話し中のあと、すぐ犯人から電話があったら信じていたかもしれない」。着信履歴を見た長男本人から電話があり、「オレオレ詐欺」だとわかったのは電話を切って20分後だった。「冷静になって思い出すと、声が長男より少し高かったかも」
家族用電話にかかってきた偶然も、重なった。「最初は疑う余地がなかった。『オレオレ詐欺』のことは知っていたけど相手は『オレオレ』とも言わなかったし、お年寄りが狙われると思っていた。まさか、自分にかかってくるとは……」
(10/14)
http://mytown.asahi.com/ibaraki/news01.asp?kiji=8090
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