2004年10月13日(水) 16時31分
[追跡・神奈川]おれおれ詐欺 次々、新しい手口−−警官や弁護士が登場 /神奈川(毎日新聞)
◇より複雑に
おれおれ詐欺の被害が止まらない。県と県警は共同で、おれおれ詐欺への警戒を呼び掛ける緊急アピールを出したが、それをあざ笑うかのように次々新たな“手口”で詐欺が繰り返される。犯人はいかにして市民の心のすきを突くのか。詐欺の手口の“進化”と犯人の心理を追いかけた。【殿岡弘江】
◇一方的な話でパニックに
◆手口の変遷
「おれだよ、おれ」——。当初は息子や孫になりすまし単独で電話をかけてきた。「彼女を妊娠させた」「交通事故を起こした」「借金が返せない」などを口実に親や祖父母から金をだまし取った。名前は言わず、「おれ、おれ」と話す手口から「おれおれ詐欺」と呼ばれた。新聞報道では、90年代初めに登場、その後、01年ごろから、急速に被害が増え始めた。件数の増加と共に、手口は単純なものからより複雑なものへと変わって行く。
詐欺手口の変遷を表にまとめた。まず、登場人物の多さが目につく。「おれ」に加わったのは、暴力団組員。まず、「おれ」が借金で困っていることを告げ、金を無心、その後、暴力団風の男が電話に出て「借金を返せないなら1時間後に船に乗り、5年間インド洋で働いてもらう」(04年2月横浜市での事件)などと言い、信用させ金を振り込ませる。暴力団風の男が登場するようになるのは、ヤミ金融の取り立てが社会問題化した時期とも重なる。
◆増える登場人物
次いで、警察官が登場する。交通事故などを語る手口だ。「●署の●巡査部長です。だんなさんが事故を起こした。今、示談金を振り込めば釈放されるが、払わないと交通刑務所に行くことになる」など警察官を名乗り、金を振り込むよう要求する。「おれ」は登場するが、泣きじゃくるだけなど、ほとんど話さない。次に「弁護士」を名乗る男が登場する。さらに「被害者」役や「被害者の親」など次々と登場人物が増える。
8月に横浜市内で発生したケースでは、子供をひいて死亡させた「おれ」から電話があり、「弁護士」が保釈金を要求、さらに子供の「両親」が登場し被害を嘆き、「被害者側の弁護士」が示談金を要求、入れ替わり立ち替わり追い立て、数時間の間に1050万円がだまし取られた。登場人物が多く、話も複雑で、港北署では「劇団型おれおれ詐欺」とあきれる。
◇「本人確認徹底を」−−精神科医の和田秀樹氏
さらに、最近では、スリが「おれおれ詐欺」の手口を応用、警察を語って盗んだカードの暗証番号を聞き出し、現金を引き出すなどの事件までひん発している。
◆信じやすい物語
犯罪心理に詳しい精神科医の和田秀樹氏にだます側、だまされる側の心理を聞いた。
まず、だます側は電話をかける回数をこなすことで、信じられやすい自然なストーリーを作ることを学ぶ。和田氏は「例えば浮気をしているときに、妻に必要以上に優しくするなど、引け目がある方が相手の気持ちを考える」と言う。詐欺をしている側が、相手の立場にたってストーリーを練っているのだ。
また、だまされる側は「だまされたことを認めたがらない現象が起きる」という。心理学の言葉で「認知的不協和」と呼ばれる。大変な事態に陥った息子(娘)を大金を出して助けた、その価値を正当化しようとし、だまされたことを認めたがらない。警察への通報が遅れたり、だまされたことになかなか気付かないのにはそうした理由があるという。また、一方的にまくし立てるように話される状況が、冷静な判断を停止させる、パニック状態を引き起こす。
◆三つの対策
和田氏は、おれおれ詐欺から身を守る三つのポイントを指摘する。
(1)本人確認の徹底 携帯電話の一時停止サービスを悪用するケースもあるので、連絡が取れるまで連絡する(2)名前・連絡先を尋ねて「こちらからかけ直す」と言う(3)「いますぐ入金を」と言った時点で疑う——。こうした対応の前提として、弁護士や保険会社が事故直後に示談金の振り込みを勧めることはなく、警察は示談金は扱わないことを知ることが重要だ。
おれおれ詐欺の広がりについて和田氏は「メディアで詳細な報道がされ、電話一本でできる安易さが拡大につながった」と分析、さらに社会的背景を「貧富の差が激しくなり、貧乏人ははい上がれないと考えることで、犯罪の割の悪さが軽減されている」と指摘している。
10月13日朝刊
(毎日新聞) - 10月13日16時31分更新
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20041013-00000020-mailo-l14