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仮想世界で流通している通貨を、現実の通貨と交換する——。ネットを介して遊ぶオンラインゲームの世界で、リアルマネー・トレード(RMT)と呼ばれる売買が広がっている。ゲームの運営者側は「仮想世界をゆがめる」として禁止を唱えるが、法的な拘束力はなく、ビジネスチャンスとばかりに仲介サイトが増えている。仮想世界と現実が交じりあう場所で、RMT行為の是非が問われ始めている。
「100万ギルを1万5000rmで売ります」
ウェブサイト「リアルマネートレーディング」には、こんな書き込みが並ぶ。ギルはオンラインゲーム「ファイナルファンタジーXI」で使われる通貨、rmはリアルマネー、すなわち円だ。
プレーヤー同士がゲームで使う通貨を円と交換する仲介サイトの一つ。書き込みを見た買い手は、売り手と携帯電話などで連絡を取り、指定された口座に現金を振り込む場合が多い。通貨の受け渡しは、ゲーム内で会って手渡ししたり、ゲームで使う私書箱のようなものを利用したりする。
オンラインゲームはコンピューター通信を利用して複数で遊ぶゲームで、「ドラゴンクエスト」のような仮想世界で、戦士や魔法使いなどの自分が選んだ役割に応じて生活を楽しむ。決まった物語やエンディングがあるパッケージ型のゲームと異なり、仲間と冒険に出かけたり、一人でこつこつと怪物を倒したりと、行動は自由だ。
しかし、何をするにもレベルや技能が高いほど有利だ。レベルをあげるには怪物を倒す必要があり、より高度な武器やアイテムを買うためにはお金がいる。お金は怪物を倒したり、商売をしたりして稼ぐが、現世と同様、なかなかたまらない。
そこで出てきたのがRMTだ。特にゲームに費やす時間が限られる社会人が利用する。また、レアアイテム(希少な物品)のために多額な現金を支払う人も多い。
既存のオークションサイトなどを使った売買もあったが、次第に仲介目的のサイトが増えてきた。冒頭の「リアルマネートレーディング」は代表的なサイトの一つ。90年代後半のオンラインゲーム草創期に誕生し、管理者が替わって、今年6月から有料の会員制になった。管理人(30)は「健全なビジネスに育てたい」と話す。
オンラインゲームの盛んな韓国では、RMTの市場規模は年間1兆ウォン(約1000億円)に上るともいわれる。ゲーム運営会社以上の売り上げをあげる仲介業者もいるという。
■法的制約なく業界苦慮
ほとんどのゲームでは利用規約でRMTを禁止している。国内最大級の「ラグナロク」を運営するガンホー・オンライン・エンターテイメントの森下一喜社長は、禁止理由を二つあげる。一つは「現実とは別個に成立しているゲームの世界観を崩してしまう」。もう一つは、詐欺行為を生む可能性があるからだ。
昨年4月、東京・板橋署管内で、ゲーム通貨を譲ると持ちかけ、15万円をだまし取る事件があった。警察庁ハイテク犯罪対策総合センターは「オークション詐欺と比べ額も数も多くはない」というが、立件に至らないトラブルなどは頻発していると見ている。
「リネージュ」を運営するエヌ・シー・ジャパンの越知雄一さんも「会員制のゴルフ場には規約がある。気分よく楽しむために、制約のなかで楽しんでほしい」と語る。
各社とも仲介サイトに対し、利用規約に反するむねの警告文を送るが、強制力はない。ゲーム世界での会話からRMT行為がわかった際は、追放を意味するアカウント停止措置をとっているが、新たに別アカウントを登録し直すことができる。
この分野にくわしい新清士・立命館大大学院講師は、「そもそも、仮想世界で発生した通貨やアイテムを売り買いする権利が遊び手にあるのかどうか明確ではない」という。また、RMTは急激なインフレを引き起こし、仮想世界のバランスを崩してしまう。「外国の安価な労働力を使って仮想通貨を集め、それを高く売って稼ぐ組織的な手口も増えている。仮想世界でも急激に富の独占が起き始めている」と新さんは言う。
ガンホーの森下社長は「最後は倫理の問題」と、法整備も含め、国内の運営者によるRMT禁止に向けたガイドラインを作成する意向だ。(2004/10/13)