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6月に成立した改正年金法が1日から施行される。厚生年金保険料(労使折半)の引き上げを皮切りに、国民年金保険料のアップ、年金の夫婦分割など段階的に制度が変わる。来年度の厚生年金保険料の負担増は労使合わせて約5千億円。引き上げは14年間続く。企業の中には保険料逃れの動きが広がりつつあり、社会保険庁は強制加入など強い姿勢で臨もうとしている。しかし、負担能力がない企業も多く、滞納が増えて年金財政を圧迫する可能性もある。
東北地方の運送会社は9月、厚生年金に新規加入したのにあわせて、従業員2人に払う月給のうち約12万円ずつを「出張時の日当」にした。月給額を少なくすれば、払う保険料も少なくてすむ。会社負担を年間20万円ほど「節約」できる。「違法すれすれの手段」と女性社長(35)。無理して加入したが、従業員は「将来もらえるかどうかわからない年金のために、手取りが減るのは困る」と不満を漏らしたという。
静岡県内のクリーニング会社は、3年前に25人いた正社員を10人に減らし、その分を保険料負担のないパート従業員で賄う。それでも厚生年金に未加入の同業者も多く、料金の値下げ競争では不利だ。経営者(62)は「これ以上保険料が上がれば、従業員の福利厚生を考える企業が生き残れなくなる」と訴える。
「休業する」などと偽って年金から脱退する企業も増えている。静岡県内の温泉旅館は一昨年、厚生年金を偽装脱退した。値下げ競争で経営が悪化し、保険料の滞納額が700万円に達していた。滞納分は分割で払い続けるが、再加入のめどは立たない。経営者(51)は「同じ温泉街の半分以上が、厚生年金に入っていないのでは」と話す。
こうした企業の保険料逃れは滞納にならないため、収納率に影響しない。いわば「見えない空洞化」だ。厚生年金保険料の収納率は98%あるが、見えない空洞化が広がれば従業員の将来の年金額が減るだけでなく、全体の保険料収入が減り、国民に約束した給付水準を維持できなくなる可能性もある。
社会保険庁は一定規模以上の未加入企業を強制加入させる一方、脱退届をチェックし直して偽装脱退を洗い出す方針を打ち出した。強い姿勢の背景には、保険料アップで未加入や保険料逃れが増え、国民に不信や不公平感がさらに広がるとの危機感がある。
一方、負担能力がない企業を無理やり加入させれば、今度は滞納額が増えることになる。企業が滞納しても、従業員は保険料を払ったとみなされ、年金を受け取ることができる。滞納が増えれば増えるほど、年金財政は悪化することになる。
一橋大学の高山憲之教授(公共経済学)は「企業は様々なやり方で保険料を節約しようと必死で、保険料収入は間違いなく見通しを下回るだろう。労働者が魅力を感じ、企業側に厚生年金への加入を働きかけるような、公平で信頼できる制度をつくるしかない」と指摘する。
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■年金制度改革の主な日程
04年10月
・厚生年金の保険料率の引き上げ開始(毎年0.354%ずつ)
・確定拠出年金の拠出限度額引き上げ
05年4月
・国民年金保険料の引き上げ開始(毎年280円ずつ)
・無職、低所得の20代に対する国民年金保険料の猶予制度開始
・育児休業中の保険料免除期間が1年から3年に延長
・60〜64歳の会社員の年金一律2割減額を廃止
05年10月
・企業年金間で積立金の移動が可能に
06年7月
・国民年金保険料の減免制度が収入に応じて2段階から4段階に
07年4月
・離婚時に合意すれば、厚生年金の夫婦分割が可能に
・70歳以上の会社員の厚生年金を収入に応じて減額
08年4月
・会社員と専業主婦(夫)間の離婚で、08年4月以降の3号被保険者期間が強制分割に
・保険料の納付実績や年金の見込み額を通知(10/01 00:17)