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埼玉県の自営業の男性(60)がこんな声を本社生活部に寄せてきた。「この春突然、公証役場から公正証書の謄本が送られてきて、びっくりした。債務不履行の場合は強制執行に服す、と書いてあるのです」
男性は貸金業者に数百万円の借金がある。公正証書をつくるには、自分で公証役場に行くか、委任状を代理人に渡さなくてはいけない。男性には委任状を書いた覚えがない。契約関係の書類の中に、貸金業者あての委任状も入っていたらしいのだが…。
今月二十五日、東京・霞が関の弁護士会館。日弁連がシンポジウム「21世紀の公証人制度を考える」を開いた。
貸金業者が、債務者が「知らない(認識していない)」うちに公正証書を作り、債務者や保証人の給料を差し押さえるなど、取り立てに乱用している−。日弁連はこう主張しており、日本の公証人法の基になったドイツと比べて、制度の在り方を考えるのがシンポの狙いだ。
「経済的弱者で、対等な立場では契約できない人が、公証人を介することで適正な契約をできるようにする。不慣れな当事者が不利益を受けないよう、当事者の不注意な行為を防ぎ、権利と義務を自覚させる。証書の条項により、どんな不利益や利益が生じるか当事者が理解していることが大切で、可能な限り簡単な言葉で説明する…」
シンポに招かれたドイツの弁護士兼公証人トーマス・ミルデさんは、ドイツの公証人に課されている厳格な「教示義務」について説明した。
ドイツの公正証書は、日本と違って不動産取引の契約が中心だが、法律で公証人に対し、当事者が誤解して不利な契約を結ばないよう、法的な権利や義務をしっかり「教示」し、意志を確認することを義務づけている。また、消費者と結ぶ契約の際は、原則として本人が出頭して教示を受けることを求めている。
今年三月、調査団をドイツに派遣して公証制度を調べた日弁連は、公証人法を改正し、ドイツのような厳しい教示義務の明文化や、債務者など当事者本人が公証人の前に出頭しないと公正証書が作れないようにする制度の導入を提言した。
ドイツで公証人になる年齢は平均三十五歳くらいという。調査団に加わった兵庫県の弁護士辰巳裕規さんはシンポで「日本でも若くて熱意のある法律家が公証人となり、教示義務を徹底することで紛争予防を実現するべきだ」と主張した。
これに対し、日本公証人連合会理事長の樋田誠さんはシンポの席上「本人が知らないうちに公正証書を作られることは絶対にない。債務者が勝手に作られたと主張しているだけ」と断言。委任状には実印と印鑑証明が必要なことを挙げ「これで本人の了解の基に作られたことになる」と強調した。教示義務は現行法の規定で「十分にやっている」として強化の必要性を否定した。
◆公証人って?
法務大臣が任命する公務員。裁判官や検察官で30年以上の実務経験がある人のほか、法務局や検察庁、裁判所に長年勤め、裁判官、検察官に準じる学識経験がある人から選ばれる。年齢は55歳くらいから上で、定年は70歳。
法務省によると今年8月末で公証人は521人。出身は検察官が220人、裁判官が147人、法務事務官などが154人。全国295カ所の公証役場に勤めている。
◆公正証書とは
例えば、契約を結ぶとき、その契約で当事者にどんな権利や義務が生まれるかについて、公証人が書いた公文書。裁判で強い証明力がある。借金の返済では「強制執行に服する」という文言を入れておくと、貸した側は裁判所の決定がなくても、給料などを差し押さえる手続きが取れる。
昨年1年で39万5674件の公正証書が作られた。内訳は債務確認が50%、金銭貸借が約9%で、計6割が借金がらみ。ほかに遺言が約16%、土地建物の賃貸借が約9%。全体件数は、景気低迷によりこの10年で大きく減った。
◆こんな時には
遺言での利用は年々増えている。愛知公証人会では「死後も自分の意志を通したい、と思う人が増えてきたのではないか」とみる。統計データはないが「養育費支払い契約での利用も増えているようだ。ほとんどが強制執行を付けている」という。
母子家庭を支援するNPO法人・Wink(千葉県柏市)事務局は「協議離婚の場合、公正証書を必ず作るようアドバイスしています」と話す。手数料は例えば100万円までの金銭貸借の場合で5000円と紙代。
◆各地で相談会
10月1−7日の公証週間中、各地の公証役場では無料相談会がある。最寄りの公証役場は日本公証人連合会=電03(3502)8050=で分かる。
http://www.tokyo-np.co.jp/00/kur/20040930/ftu_____kur_____000.shtml