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2004年09月16日(木) 00時00分

居場所はネット 侵入に怒り 佐世保事件の加害少女 東京新聞

 長崎県佐世保市の小六女児事件で、「普通の家庭で育った普通の子」(児童相談所長)と表現された十一歳の加害少女。一見、いい子が、なぜ「怒ると怖い子」に変わり、同級生を殺害するまでになったのか。「心の奥底で何があったのかを知りたい」−。殺害された御手洗怜美(さとみ)さん=当時(12)=の遺族は望んできた。十五日公表された少年審判の決定要旨を基に、謎の多い事件の背景を追った。 (社会部取材班)

 少女と怜美さんはインターネットでのチャット(おしゃべり)や交換ノートをする仲だった。決定はこうした“文字”を介しての交流の場が、会話でのコミュニケーションが不器用な少女にとって「唯一安心して自己を表現し、存在感を確認できる『居場所』になっていた」と指摘する。

 「ホラー小説などの影響で攻撃的な自我を肥大化させていた」という少女は、怜美さんにインターネットの掲示板などで容姿にかかわることや、「いい子ぶっている」などと書かれたことに腹を立てた、とされる。「何度も嫌なことがあった」。事件後、少女はそう振り返っている。

 決定によると、怜美さんは、自分の表現の無断使用を注意する少女に息苦しさや反発を覚え、交換ノートに反論を書いたり、ホームページに少女への否定的な感情を表現したとみられる文章を載せた。が、それは決して殺意を抱かせるようなものではなかった。

 だが、少女はこれを「『居場所』への侵入」ととらえた。「自分のことをばかにし、批判しているように感じて怒りを募らせた」。「侵入」が重なったと感じると、怒りを募らせて攻撃性を高め、殺意を抱くに至る。

 六月一日、少女はカッターナイフを持って学校へ向かう。教室と同じ階にある学習ルームに怜美さんを呼び出したのは、給食の時間だった。

   ■   ■

 両親と姉、祖母の五人暮らしだった少女。小さいころから泣いたり、抱っこをせがむなど親に甘えることも少なく、一人でおもちゃで遊んだり、テレビを見て過ごすことが多かったという。両親はそんな少女に「育てやすさ」を感じ、「一人で過ごすことを好む、手のかからない子ども」ととらえた。

 二歳のころ、父親が長期入院生活し、両親の関心が闘病生活に向かった時期もあり、決定は「両親の少女への目配りは十分でなかった」と指摘した。

 自分の感情を両親らに受け止めてもらうことがなく、「基本的な安心感が薄く、他人に愛着を感じることも難しく、対人関係や社会性などの発達が未熟」だった少女。自分の気持ちをうまく表現できず、「愉快」という感情以外、あまり出さなかった。周囲からは「おとなしい、明るい子」と見られた。

 一方で、「複雑な対人関係での怒りを認識できるほど情緒などが発達していない」ため、抑圧、回避するか、相手を攻撃し発散するという行動でしか怒りの感情を処理できず、同級生らからは「怒ると怖い子」と見られるようになった。事件はその延長線上にあった。

   ■   ■

 事件後、三カ月にわたって身柄拘束をされた少女は、自らの行為を振り返り、内省する時間を持ってきた。だが「今もなお、被害者の命を奪ったことの重大性やその家族の悲しみを実感することができない」という。

 悲しみの経験や、共感する気持ちを基盤にした「死のイメージ」が希薄で、「少女にとって人の死とは『いなくなる』という以上のものではない」という認定だ。殺害時の記憶の大半が失われ、現実感がないこと、処理できない感情には目を向けない習慣だったことも要因とされた。

 少女が今後、贖罪(しょくざい)の意識を持つために、決定は「人に共感したり、親密な人間関係を築く基本的信頼感を体得させ、その後、感情の処理方法、自分の意思を伝える社会的スキルを習得させる必要がある」という。行動の自由を制限する強制的措置を許可したのは、したことの意味を理解するようになった時、自傷行為に走る可能性もあるためだ。

 「少女は今、心身の変化に富む時期にいる。今後の成長で処遇が順調に進むこともある」と最後に決定は期待を寄せた。


http://www.tokyo-np.co.jp/00/kakushin/20040916/mng_____kakushin000.shtml