2004年09月16日(木) 01時03分
<小6同級生殺害>被害者の父、「なぜ怜美が」見えなかった(毎日新聞)
長崎県佐世保市の小6同級生殺害事件被害者の御手洗怜美さん(当時12歳)の父親で毎日新聞佐世保支局長の恭二さん(46)は15日夜、佐世保市役所で記者会見。家裁の処分決定に「非常に戸惑っている。私は事件直後から『なぜ怜美がこんな目に』ということにこだわってきた。調査や鑑定で解き明かしてほしいと思っていたが、その結果は特別なものには見えなかった」と困惑を隠さなかった。
御手洗さんは、右手に怜美さんが愛用していたブレスレットを着け、代理人の八尋光秀弁護士とともに会見に臨んだ。冒頭、A4判1枚の手記を配り「事件の日からあっという間だった」と振り返った。裁判所の対応には「決定通知は全文をいただいた。鑑定の部分は詳細で、対応に感謝しています」とし、淡々とした口調で時に伏し目がちになりながら、一言一言をかみしめるように話した。
処分については「予想されていたことなので特別な感想はないが、今の少年法で取りうる最大限の措置をしていただいた」とした。ただ「多分、納得はしていないが、現行法では受け入れざるを得ない」と複雑な思いを吐露。「決定には『女児は怒りを処理できない』とあるが、突然キレる子はどこにでもいる。そういう子と今回の女児がどう違うのか。最後の一線を越える子と踏みとどまる子とどう違うのか」ともどかしそうな表情を見せた。
また「(加害女児が)相手の家族を思いやるところまで達していない状況なら、何を言っても伝わらない気がする。早く感情や相手に考えを伝える力をつけていただいて、それからだと思う。審判という手続きは終わったが、僕も彼女にとっても、まだ終わっていない」と語った。
「子供を理解する努力を続けて下さい」と呼び掛けた御手洗さん。「処分決定の要旨も多くの方に読んでいただいて、家庭なり学校なりにフィードバックすれば、(再発防止に)つながるのではないか」と訴えた。【船木敬太、倉岡一樹】
◆御手洗恭二さんの手記
さっちゃん。あの日から3カ月半。少年審判が終わりました。たくさんの人が彼女のことを調べてくれた結果に、父さんは戸惑っています。彼女は、程度の差はあれ、父さんたち大人が一般的に「普通」と呼んでいる子どものようです。この結果は鑑定や調査の限界だろうか。それとも「普通の子」でもこんな大変なことを起こしてしまうということだろうか。父さんには分かりません。
そして、改めて親子や家族の大切さと難しさを感じています。君は父さんの前では年齢の割に幼かったり、そのくせ時には母さんのように励ましてくれた。でも手紙やメールを読んだら(ゴメン、無断で)転校で変わったさまざまな環境に苦しんでいたんだね。知らなかった。
親が子どものすべてを理解することはできないかもしれない。でも父さんは努力が足りず、彼女とのもめごとに気づかなかった。気づいていれば何か手助けできたかもしれないのに。同じように彼女のご両親も考えてくれていたらいいね。
わが子が被害者、そして加害者になるなんて親は思っていません。だから父さんみたいに苦しまないために、同じ子を持つ大人に言えるとすれば一つだけ。「子どものすべては理解できないと分かったうえで、理解する努力を続けてください。それぞれの家がそれぞれのやり方で」
さっちゃん。彼女は学校でもちょっと気になる兆しを見せていたようです。でも大人は誰も気に留めず、手を差し出さなかった。
父さんが昔、学校を取材して「素敵だな」と感じるクラスがありました。先生が冗談を言って笑いを取るわけではないのに明るい。先生が怒れば子どもたちは震え上がる。それでも子どもたちと先生はお互いを信頼している。そんなクラスの先生は笑顔も素敵で、先生という仕事を心の底から楽しんでいるんだなと感じました。
今の学校はどう? 先生たちは子どもと向き合うこの仕事を本当に楽しんでいる? 教育行政の人たちは自身も子どもと直接向き合う気持ちで学校を支えている?
今も君のいない寂しさがスクラムを組んでやってきます。でも多くの人の励ましでこの日にたどりつくことができました。少年審判は終わったけれど、父さんにとっても彼女にとってもこれからの半生が本当の審判です。そして父さんなりに事件を見つめ直したいと思っています。
さっちゃん。今年はクリスマスを少し楽に迎えられそうだよ。君がこの3年間、サンタさんに「母さんの声をもう一度聞かせて」とお願いしていたから、父さんはちょっと困っていた。今はもう二人一緒だよね。今年は父さんが「二人の声をもう一度聞かせて」とお願いしてみようかな。
2004年9月15日 御手洗恭二
(毎日新聞) - 9月16日1時3分更新
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