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■なぜ?『NHKが放送しないから』
国会閉会中に不祥事問題で審査が行われるのは異例のことで、審査は約三時間にわたった。これをテレビ生中継したのは東京MXテレビ、配信を受けた一部の局など。同テレビの田沼純編成局長はこう話した。
「受信料を払っている視聴者としても関心が高い問題。ジャーナリズムとして、NHKが襟を正して公の場で発言するところを、自らが中継すべきだが、やらないのなら、じゃあやろうじゃないかと。うちは見てもらえる範囲は狭いが、それでも人口の十分の一はカバーできる。それが今回、中継に踏み切った原点」
同社のある幹部は「番組編成を動かしやすく、機動性のあるMX。その存在を知らしめる良いチャンスだった」とにんまり。放送後、四十六件の激励電話があった。「局内では『NHKの反撃があるんじゃないか』なんて冗談交じりの話も出ている」と田沼氏。
ラジオでは、エフエム東京のブロードバンド放送が生中継している。同社担当者は中継の理由を「世間的な関心事で、NHKがやらないから」と話した。
今回の生中継を「良い判断」と評価するのは、放送評論家の志賀信夫氏だ。
「海老沢会長は、答弁を他の役員にまかせて、自身の発言は短かったが、悔しい顔や怒った顔を見せていた。長く会長とつきあってきたが、ああいう顔を見たのは初めて。その顔を見せることが、問題の本質を見せることになる」
■「危機を好機にできたのに…」
NHKが中継しなかったことについては「『編集権の問題』と言っているが、会長以下が、白州の上で議員にいびられるのを見せたくなかったというのが本音だろう。ロッキード事件、リクルート事件でも、マスコミは参考人招致の中継を求める立場。それが自身のことを報じる段で、責任を拒否した」と手厳しい。
質疑で、海老沢会長らは謝罪こそしたが、元チーフプロデューサーの制作費着服事件などの詳細を聞かれると「警察に捜査を依頼している」などと、答弁を避けるばかり。質問した民主党の中村哲治議員は「説明責任を果たしてない。例を挙げたらきりがない」と苦笑。社民・市民連合の横光克彦議員も「きちんと説明すれば、ピンチをチャンスにする機会だった。それを自ら捨てた」と言う。
志賀氏は不満げだ。「NHKの答弁は(七日に公表された)内部調査の結果以上のものではなかった。議員側も新聞や週刊誌で出た以上のものではなかった。調査権を持っている特権を生かして、もっと切り込むべきだった」と。
NHKは十一日午後、約一時間の特別番組で、制作費着服問題など一連の不祥事について、内部調査の結果や、今回の委員会審査の模様をダイジェスト版で放送するという。
「一貫性がない」と志賀氏。「初めから放送すべきだった。会長、NHKという組織のメンツにこだわり過ぎた。これでは、視聴者の不信感を深めるだけだろう。生中継をしないことだけでも、NHKが『体質変化をしなければいけない』という認識を持っていないことがうかがえる」
■トップはいつも『出直し』発言
企業の不祥事への対応を見てきた危機管理コンサルタントの田中辰巳リスク・ヘッジ代表は「隠す、ウソをつく」が最もいけないと警告して言う。
「(NHKには)根本的に時代錯誤がある。公共性が高い警察、役所、銀行、電力会社やNHKは無謬(むびゅう)でなければいけないという対応だから、ばれなければと、内々の処分で済ませようとした。衆院参考人招致もなぜ、NHKは自らしなかったのか。隠ぺい体質の表れではないのか」
不祥事は、対応次第で信頼回復につなげられる。しかし、ひとたび信頼を失えば容易には取り戻せない。
「今の時代は、逆に積極的に情報を開示するのが企業が信頼されるためのカギで、雪印乳業や三菱自動車の事件を報じたNHKがそれを知らないではすまない。早く時代錯誤をやめなければ、信頼という報道機関の生命線を絶たれる」
NHKに寄せられた視聴者の声は六千五百件にのぼり、「処分が甘い」「もう受信料を払わない」といった厳しい批判が多かった。背景には何十倍、何百倍の批判があるのではないか。
「信頼される会社」となる対策の定番は「企業行動規範」「企業倫理委員会」といった綱領や組織づくりだ。経済同友会が今年一月まとめた報告では、行動規範を策定している企業は83%に達している。
NHKも海老沢会長が七日の記者会見で、会長をトップとする「コンプライアンス(法令順守)推進委員会」を置くと説明。「倫理観に裏付けられた透明性の高い業務運営、緊張感のある組織作りを進めていく」ため、職員の道しるべとする「NHK倫理・行動憲章」も明文化するという。
欠陥隠しで消費者の厳しい視線を受けている三菱自動車。企業倫理が改善されず、マイナス情報が経営上層部に届かない風通しの悪さを批判される。一九九七年に総会屋への利益供与事件が発覚、二〇〇〇年にリコール隠し。経営陣がそのたびに代わり、「企業倫理の構築」を唱えたが、再び欠陥隠しを起こした。対策として「企業倫理委員会」を置いている。
■『新設委、機能するの』
だが、世間の視線は厳しく、信用回復への近道は容易に見つからない。牛肉偽装事件で解散に追い込まれた雪印食品。その親会社である雪印乳業の社外取締役に二〇〇二年、就任した日和佐信子氏(元・全国消費者団体連絡会事務局長)は「多くの会社が企業倫理委員会を設けたのに機能していないのが現状でしょう」として苦悩を話す。
「実は行動規範も社名を隠せば、どこの会社かわからないほど似通う。企業倫理のガイドラインや組織は、作るより定着させるのが難しい。雪印では、反省を踏まえた『行動基準』を社員全員参加でつくり、『見て見ぬふりは許しません』といったふだん遣いの言葉でまとめたが、パート、アルバイトを含めた全従業員に高い意識を定着させるのは難しい」
では、視聴者はNHKの信用回復への本気度をどうチェックすればよいのか。
日和佐氏は「雪印は役員がすべて辞めた。NHKも不祥事の深刻さはかなり根深いはず。信頼回復が本気かどうかは、委員会にどう外部の厳しい意見を取り入れるか、トップにやる気があるかどうか」と言う。
■信頼回復には“悪童”が必要
「不祥事企業にはショックが必要だ」と田中氏。
「倫理委員会ができた企業にアドバイスに出向くと、いかにも真面目(まじめ)そうな顔つきの社員を登用している場合が多い。私は『皆さんは悪童になって、組織のトップとたたかうことができるのですか』と挑発することにしている。組織を大きく変えるとしたら、トップとたたかい、トップに厳しい処分を迫るしかない。こんなに大変な事態なんだと社員を震え上がらせることが必要で、委員会をつくり体裁を整えるだけでは何も変わらない」
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20040911/mng_____tokuho__000.shtml