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(金井 俊夫)
■名古屋の女性 余命6カ月でも対象外
名古屋市内の主婦A子さん(61)は、体から力が抜けるのを感じた。
「こちらの間違いでした。請求した額のお金は出ません」。受話器の向こうで生保会社の担当者が言った。六月上旬のことだ。
その一週間前、肺がんで「余命六カ月以内」との診断書を添え、リビング・ニーズ特約による保険金(特約分と終身分を含めて三千万円)の支払いを求める書類を、生保会社の職員二人に渡したばかりだった。
二人からは「診断書があれば、すぐに三千万円が出る」という説明を受けていた。「生前に保険金が入れば、家族の手を煩わせずに済む。場合によってはホスピスにも入れる」と期待を膨らませていたのに…。
担当者の説明では、契約で、特約分(二千四百万円)は、特約期間の満了(A子さんの場合は今年十月)前一年間は支払い対象にならないとの規定があり、支払えるのは終身保険分の六百万円だけ。
A子さんの場合、昨年十月までに「余命六カ月以内」の診断書を添えた請求書類が生保会社に届いていないと、特約分は払えないという。
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この生保会社の本社では、この規定があるのは「余命六カ月以内」と診断された人が、実際にはもっと長生きする場合があるためだと説明する。
もし、保険金を前払いした加入者が特約満了日よりも長生きした場合、保険会社は本来、終身分のみの保険金を払えばよかったのに、生前にそれ以上払うことになり、保険としての収支バランスが崩れる。そこで最低六カ月の“余裕”を持たせ「満了前一年以内」と定めているという。
A子さんが自分の保険にリビング・ニーズ特約を付けたのは十年前。同社によると、当時、営業職員がこの規定について説明していなかった。
また今回、営業職員らが「保険金が払われる」と説明したのは「リビング・ニーズ特約の規定を十分理解していなかったり、制度は熟知しているが、今回がその規定に該当することに気付かなかったりしたため」と説明し、「大変申し訳なかった」と謝罪する。
ただ、「保険商品には留意事項や制限条件がたくさんあり、すべてを網羅して説明することは現実的には無理」と釈明している。
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A子さんは、生保会社の担当者すら規定を理解していなかった事実に納得できず、契約時や現在の加入者にあらためて明確に説明することなどを生保会社に求めた。同社からは「職員への教育指導の徹底と、指摘に対するできる限りの対応を検討する」などとする文書が七月下旬に届いた。
同社によると、A子さんの保険を扱っている支社では、営業職員らに対し、今回の事例をあげて「顧客の契約状況を再確認し、規定についてきちんと説明するよう指導した」という。ただ、社全体としては「指導を検討する予定」。本人や家族の切実さを思うと、生保会社の対応は十分とはいえないだろう。
■「特約満了1年以内は対象外」など条件
リビング・ニーズ特約は一九八九年に米国の生保会社が始め、国内でも九〇年代前半から生保各社が次々と導入、制度として定着してきた。特約のための保険料は不要で「サービス」的な要素が強い。
生命保険文化センターなどによると、支払いの条件となる「余命六カ月以内」、支払金額の上限三千万円、「特約の保険期間満了前の一年以内は対象外」などの基本条件は、共通している会社が多い。しかし、ほとんどの会社が、この特約付きの契約件数や保険金の請求、支払件数がどのくらいあるかは公表していないという。
今回の事例の生保会社の場合、この特約を付けることが可能な約八百三十万件の契約のうち、八割近い約六百五十万件に特約が付いている。
実際の前払い請求はここ三年間でみると毎年三百−四百件。このうち九割以上は支払われている。
請求しても支払われなかったケースの理由の大半は、同社が「余命六カ月以内」と判断しなかった場合。
診断書には「余命六カ月以内」とあっても、その内容が「医学的な常識に照らして合理的でない」ときは、査定医が確認するという。
また「特約の保険期間の満了前一年以内」に該当して支払われなかったケースは、これまでに数件。同社の場合、リビング・ニーズ特約で保険金を支払った後、一年経過した時点での加入者の生存率は一割強という。
http://www.tokyo-np.co.jp/00/kur/20040902/ftu_____kur_____001.shtml