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東北地方第一の高峰燧ヶ岳(ひらうちがたけ、2346メートル)や、駒ヶ岳、帝釈(たいしゃく)山など2000メートル級の山々に囲まれた檜枝岐は、谷底高度(やていこうど)1900メートルもある典型的な高冷地山村で、食材もその気候風土に左右されてきた。その地形上、水田がほとんどないために、寒冷地に適した蕎麦が炭水化物源の重要な位置を占めている。つなぎを全く使わない蕎麦粉100%の「裁(た)ちそば」、蕎麦田楽(でんがく)、蕎麦水団(すいとん)、蕎麦焼餅(やきもち)、はっとうなど枚挙にいと間がないほど多い。
また、蕎麦のほかにも栃の実を使った栃餅(とちもち)や荏胡麻(えごま)餅、里芋、自然薯(じねんじょ)、蕨餅(わらびもち)といった炭水化物源も昔から「食材自在」、「就地取材」の原則そのもので食べてきた。
一方、たんぱく質源には、清流伊南川やその上流檜枝岐川からの川魚(鮎、鯉、山女(やまめ)、うぐい、鰍(かじか)など)が主体であったが、村に交通が通じるようになってからは、身欠鰊(みがきにしん)、煮干(田作り)、塩鯨(しおくじら)、棒鱈といった海からの保存食も持ち込まれるようになった。勿論、豆腐や納豆、味噌といった大豆起源の植物性たんぱく質も昔から食べられていた。
脂質源の大半も植物系で、昔は土地でとれた荏胡麻の実を搾って得た油が主流で、ほかに菜種油や胡桃(くるみ)油も使われていた。
また、この地は冬が長く春が遅い気候なので、その間は野菜が不足する。そのため、初冬に収穫した大根を厳冬に凍(し)みらせてつくった凍み大根は大切な食材のひとつで、これに凍み豆腐や干し椎茸、身欠鰊といった、いわゆる保存食材だけを合わせて煮物を作るなどは、正にこの陸の孤島にふさわしい料理として象徴されよう。
とにかく、そのような厳しい生活環境の中で、1000年以上も前から逞しく、力強く生きてきた山人(やまうど)たちの底力は、このような自然からの恵みものを自然体で無理なくとり入れた知恵の食生活が確立されて発揮されたのであろう。その証拠に、今も檜枝岐の人たちの顔は皆、明るく、そして眩しく健康的に輝いていて、心の中まで澄みきっている。