2004年08月07日(土) 00時00分
「警察です。ご主人が事故」 劇的電話サギ(朝日新聞・)
【福岡】今年182件 新「オレオレ」30代も狙う 「オレオレ詐欺」など電話による詐欺の被害が止まらない。福岡県内での被害は、今年に入って6月末までに182件、約2億4300万円。03年の43件、約3500万円をすでに大きく上回っている。警察官役や被害者役など何人もの登場人物に、練り上げた台本——。単に息子や孫を装って「オレオレ」と言うのではなく、手口は悪質、巧妙になっている。被害に遭った人から体験を聞いた。
(吉田啓)
●口調は丁寧 福岡市の主婦(36)に電話があったのは6月中旬の平日、午前10時ごろだった。
「○○さんのお宅ですか。警察の佐藤と申します。ご主人の車が赤信号で止まっていた車に突っ込みました。助手席にいた相手の奥さんが意識不明で病院に運ばれました」。30〜40代と思われる男の声が告げた。
夫が事故を起こしたと聞き、動転した。
落ち着いて話す男の口調や、電話帳に自宅の電話番号を載せていないのに正確に名字を言われたことから信頼した。
「ご主人は示談を希望している。被害者も了承した。警察が間に立ちます」。相手は畳みかけ、被害者役を登場させた。やはり30〜40代と思われる男が丁寧に話した。
「示談と言われ、了承しました。警察と代わります」
●傷心の「夫」 主婦はここで「夫と話したい」と要求した。
ところが、相手は夫役も用意していた。
「もしもし……(鼻をすすり上げ、言葉にならない様子)」。夫役の動揺ぶりが主婦にも伝染した。「ひどくショックを受けている。なじらないで」。警察官役が事前に伏線を張っていたこともあり、それ以上、会話を続けられなかった。
「示談はお金を振り込んだ時点で、被害者からサインと印鑑をもらって成立する」「被害者は埼玉から出張で来ている。今日中に帰るので30分以内に振り込んで」
動揺を見透かしてか、矢継ぎ早に指示を出してきた。
示談金額を「入院、通院費用に4万円。車の修理代が二百数十万円」と細かく指定。「私は現場にいて署には無線で連絡している。携帯を持っていないので被害者の携帯番号を教える」「ご主人は取り調べ中で私物は預かっている。携帯電話はつながらない」と言われ、警察署や本人に電話しようと思わなくなった。
「30分以内に」と指示され「被害者に迷惑をかけられない」と焦った。近所の郵便局で定期貯金を解約、地方銀行から、指定された埼玉県内の都市銀行の口座に約270万円を振り込んだ。郵便局や銀行の窓口では何も注意されなかった。
●本人確認を 被害が発覚したのは、その日の午後遅く。
警察官役の男が入金後の手続きについて説明した最後の通話で「1時間以内に連絡する」と話したのに2時間たっても連絡がなく、ようやく「おかしい」と気付いた。主婦は「電話による詐欺のことは知っていたが、単純に『オレオレ』という手口ばかりだと思っていた。被害者は高齢者が主で、まさか自分が詐欺の対象になるとは思ってもみなかった。そこに付け込まれた」と振り返る。
主婦の説明を聞いた夫も「私や警察への確認を防ぐため周到な理由を用意するなど手口は巧妙。だまされるのも仕方がないと思った」と話す。
県警は「示談に警察が入ることはない。必ず本人や他の家族に確認を。警察にも相談してほしい」。主婦は「夫の立場を考え、会社への電話や周囲への相談を控えた。どこかで一声掛けてもらえれば気付いたかも」と金融機関の窓口などでの被害防止策を期待する。
50代以下が被害の7割 警察庁によると、いわゆる「オレオレ詐欺」の全国の被害(未遂も含む)は、03年は6504件で総額約43億2千万円だったのが、今年は5月末現在ですでに4974件、約42億7千万円と、増加傾向にある。
福岡県警によれば、03年中の被害者は60代以上が77%だったが、今年に入り、50代以下が70%(6月末現在)と若年化している。詐欺の口実は交通事故示談金名目が約70%と相変わらず多いが、警察官役が登場するのが最近の特徴。中には弁護士役が出てくる場合もあるという。
金融機関も被害防止の取り組みを進めている。
山口銀行は「全行に具体事例をメールで知らせ、現金自動出入機(ATM)での振り込み手続きの際には『オレオレ詐欺に注意』のメッセージを表示している」。
(8/7)
http://mytown.asahi.com/fukuoka/news02.asp?kiji=6779
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