悪のニュース記事では、消費者問題、宗教問題、ネット事件に関する記事を収集しています。関連するニュースを見つけた方は、登録してください。
また、記事に対するコメントや追加情報を投稿することが出来ます。
■実名告発 半年悩む
副社長から、不明朗な取引を指摘する告発が出されたのは今年五月。さらに、今月十八日、同問題が報道された後も、太田氏は「やましいことは何もない」と強気の姿勢を貫いた。しかし、「うちは二兆円企業。美術品を年に一億円買ったって大したことはない」などの発言も伝えられ、「公私混同」という社内外の批判が強まる中で、辞任に追い込まれた形だ。
「告発」を行った副社長は、その思いをこう話す。
「この問題は、必ずオープンになる話だと思った。検察、国税も絡んでおり、そうした問題に中電が、ましてや会長がかかわったという形で、公になったらどうなるか。世の中の人には理解はされないだろう。これをリスクとして考えた場合、どうしたらいいのか」
太田氏は一九九五年から中電社長、〇一年から会長。電気事業連合会会長なども歴任、中部経済連合会会長(辞任を表明)なども務める名実ともに実力者だ。
しかし、一方で、前会長が退任、重しが取れたことで、独断専行や会社を私物化しているとの指摘もあった。OBの一人は「優秀な人だが、周りが顔色をうかがうようになり、人の意見を聞かないようになった。太田氏の趣味などで貢献した社員が栄転する一方で、批判をして飛ばされるケースもあった」と話す。
こうした社内事情から、副社長は、風通しが良くならない、社員が自ら考え行動するという雰囲気にない、と感じていたともいう。「会長が何を考えているか、そればかりでは内向きになってしまう。これでは電力自由化の流れの中で、活力ある会社として生き残ることができない」
■『日本ハム、雪印みて決断』
しかし、実際に告発に至るまでには、さまざまな葛藤(かっとう)もあったと打ち明ける。「覚悟をするのには時間がかかった。私が問題を知ったのは昨年の十一月か十二月。告発は今年五月だから半年ぐらいはいろいろと悩んだ。OBにも相談し、コンプライアンスを活用したらどうかとの助言も受けたが、コンプライアンスのルールは『実名』。匿名では告発できない。悩んでいる間、いつマスコミに出てしまうかと心配していた」
しかし、最終的には決断する。「日本ハムや雪印の問題を見ていて、きちんとしないと中電も同じ目に遭うと感じた。先のある若い人に比べたら、自分はもう身軽だし、被害は少ない。やるなら徹底してやろう」
■社長との間に“暗黙の了解”
実は、関係者によると、川口文夫社長も今年三月、この問題をコンプライアンスの場で提起したいとの意向を持っていたが、反対などもあり取り上げられなかった経緯があるという。社長側からも誰かからの「告発」を待ち望んでいた、との背景があったようだ。
今回の退任劇について、OBの一人は「いろいろなことがうまく絡まった。運が良かった」と説明する。「社長自身も太田会長の問題では困惑し、悩んでいた。そこに副社長の告発があった。示し合わせたわけではないが、暗黙の了解があった。さらに三菱の事件が起きたことも、危機感として働いた。事実を隠す方向にいけば三菱と同じになる。ウソはウソを呼ぶ。同じ電力業界では東電の原発トラブル隠しもそうだ。教訓が良い方向に生かされた」
■道路公団告発者『当時は総裁守る組織』
一方で、中電のケースについて、「自分とは全く逆のケースだ」と話すのは、日本道路公団の幹部職員だ。この幹部は公団民営化をめぐる動きの中で、月刊誌で藤井治芳総裁(当時)を批判、公団が「債務超過」とする「財務諸表」を暴露するなど内部告発した。
しかし「左遷」され、藤井氏の意向をうけた公団コンプライアンス本部の調査で、逆に損害賠償などを求める民事訴訟も起こされた。近藤剛総裁になった後の今年二月、訴訟は取り下げられ、本社に復帰したものの、時のトップがコンプライアンス組織を利用し「内部告発者」を刺した形だ。
この幹部は振り返る。「コンプライアンス本部は、藤井氏を守るためのものだった。そのために、権威ある人を藤井氏が外部から連れてきた。上層部の意向を受けて動く組織で、つくる時、内部には反対もあったが、誰も藤井氏には言えなかった。実際、公団の飲食費(などの交際費)が問題となっても、同本部は『問題なし』とした。職員も委縮した。本末転倒で、最もダメなケースだった」
この幹部は「本来、対外的な問題は総務部が当たるし、監査制度もある。それが機能していれば、コンプライアンス組織は要らない。組織をつくれば良いというものでもない。厳格に運営しないとかえってマイナスにもなる」とした上で、こう指摘する。「組織の中で発言するのは勇気がいる。発言者をどう保護するか。それができれば正義感のある人たちはいる。そうでないと組織は機能しない。御用コンプライアンスではいけない」
雪印乳業企業倫理委員会社外委員を務める立教大学大学院経済学研究科の田中宏司教授は、中電のケースについて「コンプライアンスの本来の目的にかなう成功事例だ」と評価する。
「不祥事を抱えた企業が、危機を増大させるかどうかの分かれ目が三点ある。一つ目は、緊急事態が発生したときにマイナス情報を迅速に上層部に上げられるかどうか、二つ目は社内調査の結果を隠ぺいせず公開できるか、三つ目は経営陣がいかに真摯(しんし)にきちっと責任を取るかだ。中電のケースは、この三点に照らし合わせても危機増大を未然に防いでいると言える」
■『外部の人間が必要』
一方、田中教授が委員を務める雪印乳業のほか、日本ハム、東京電力など不祥事を起こした企業は企業倫理の専門家や消費者代表、弁護士などの社外委員を入れて外部の視点を導入している。田中教授は「本来は外部の人を入れる方が望ましい。内部だけで作ると社内の論理が優先してしまいがちだ」と指摘する。
田中教授は続ける。「中電は他の企業不祥事を他山の石としたいい事例だ。今回、企業のトップのことでもコンプライアンス組織で議論できるということを知った意味では、他の企業にとっても重要な意味がある。他人事と思っていてはいけない」
副社長は最後にこう話した。「中電の信頼が失墜したと思っている。何とか立て直したいし、風通しの良い社内にするよう、意識改革をはかっていきたい。ようやくスタートを切れる」
<メモ>
【中部電力の古美術品問題】 中電は1999年から2002年にかけて、太田宏次氏の知人の名古屋市内の古美術商から古美術品約260点を約5億8000万円で購入。太田氏は中電の取引とは別に、同美術商から個人で約500点(1億9000万円相当)の古美術品を預かり、自宅に長期保管していた。同古美術商は昨年9月、所得税法違反(脱税)容疑で名古屋国税局の強制調査(査察)を受け、関連で、中電総務部が取引先として反面調査を受けた。
【中部電力・コンプライアンス推進会議】 東京電力の原発トラブル隠しを発端に、2002年12月に設置。メンバーは非公開だが、川口文夫社長を議長に、労働組合委員長、弁護士ら約10人で構成。古美術品問題では、告発を受け、古美術品の真贋(しんがん)や価値の鑑定などを外部に委託。さらに、購入の経緯なども調査する。
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20040730/mng_____tokuho__000.shtml