2004年07月30日(金) 17時50分
英ビッグブラザー賞を、『米国出入国現況表示技術』が受賞(WIRED)
地元警察にドライバーの不正な行動を逐一報告する自動車。全市民に関する詳細な情報を蓄えている巨大データベース。利益につながるときだけプライバシーのガイドラインに従う企業。
これらは、『
http://pi.gn.apc.org/ プライバシー・インターナショナル』が28日(現地時間)に発表した、第6回『英国ビッグブラザー賞』の受賞者の一部だ。この賞の目的は、イギリスで個人の自由を最も侵害した政府機関や民間組織を公表することだ。
この賞には『最悪の公僕賞』(Worst Public Servant)、『最もプライバシーを侵害する企業賞』(Most Invasive Company)、『最も恐るべき計画賞』(Most Appalling Project)、『最も悪質な政府機関賞』(Most Heinous Government Organization)、『終身脅威賞』(Lifetime Menace Award)があり、受賞者の選定は、弁護士や大学教師、プライバシー関連のコンサルタント、ジャーナリスト、市民権活動家たちといった
http://www.privacyinternational.org/bigbrother/uk2004/panel.html 専門家で構成される委員会が行なった。
受賞者は、一般市民によってノミネートされた約300の個人と組織から選ばれた。受賞者には、
http://www.wired.com/news/images/0,2334,64379-13668,00.html 人の頭を踏みつけている長靴をかたどった素晴らしい金の像(写真)が贈られ、通常は郵便で送り届けられる。というのも、これまでにこの像を受け取りに来た受賞者はいないからだ。
ビッグプラザー賞は現在、17ヵ国で毎年開催されている。各イベントは通常、主催国におけるプライバシー侵害に焦点が据えられる。
だがプライバシー・インターナショナルは、今年は例外的にイギリスの賞の対象に米国の計画『
http://www.dhs.gov/dhspublic/interapp/content_multi_image/content_multi_image_0006.xml 米国出入国現況表示技術』(U.S. Visitor and Immigrant Status Indicator Technology:US-VISIT)も加えた。『終身脅威賞』を受賞したこのセキュリティー計画は、ビザで米国に旅行する多くの外国人に、指紋のデジタルスキャンとデジタル写真撮影を要求している。こうすることで、入国管理官は旅行者を米国へ入国させる前に身元を確認できるからだ。
プライバシー・インターナショナルの責任者、サイモン・デイビス氏は次のように述べている。「この計画は侮辱的でプライバシーを侵害するものなのに、議論も調査もほとんどなされていない。また、イギリスと米国間の『特別な関係』を考慮してイギリスが米国に突きつけた要件もない。イギリス政府はこの計画に対して沈黙を保ち、米国の動きに従ってきた」
『最悪の公僕賞』を受賞したのは、英教育技能省のマーガレット・ホッジ児童担当大臣だ。ホッジ大臣の受賞理由は、イギリスの国民健康プログラムによって収集した未成年者の情報を他の政府機関と共有するという、物議を醸した追跡システムを支持したことだ。
教育技能省はこのような追跡を行なうことで児童虐待を防げると考えているが、反対派は、こうした情報の共有は医者の患者に関する守秘義務違反に当たるという観点から抗議を続けている。
英セントリカ社が運営する『ブリティッシュ・ガス』は、『最もプライバシーを侵害する企業賞』を受賞した。ブリティッシュ・ガスは、イギリスのプライバシーに関する規則が障害となって、
http://news.bbc.co.uk/1/hi/england/london/3342059.stm 昨年10月に自宅で低体温症で死亡しているのを発見された1組の老夫婦を助けることができなかったと説明したのだ。この老夫婦が亡くなったのは、140ポンド[約2万9000円]の請求額の支払いがなかったとしてガスの供給を停止されてから数週間後のことだった。
ブリティッシュ・ガスは、個人情報が確実に保護されることを目的とした『データ保護法』のせいで、社会福祉機関に報告できなかったと述べた。社会福祉機関に伝わっていれば、老夫婦が再び暖房を利用する手助けが得られただろう。
この賞の次点となった英ロイズTSB銀行は、顧客に対し、支店の窓口で正式な写真入りIDを提示するよう求め続けており、そうしなければ銀行口座を凍結すると脅している。ロイズ銀行はこの計画を、テロや国際的なマネー・ロンダリングを防止するための手段だと説明している。
携帯電話に組み込んだGPSチップを利用して、「
http://www.followus.co.uk/homeusers.html 安心、安全、あるいは楽しみのために」携帯電話の利用者の場所を特定している英フォローアス社(FollowUs)も、同じく次点となった。
『最も恐るべき計画賞』の栄誉に輝いたのは、イギリス政府の国民健康保険機関の電子医療記録プログラムだ。これは患者の記録のコンピューター化を目的としたシステムだが、セキュリティーに疑問があり、患者のプライバシーが侵害されるという反対の声が上がっている。
この賞の次点は、携帯電話会社の英ボーダフォン・グループ社だ。同社は、顧客が携帯電話からアダルトサイトに接続するのをブロックしており、子どもが携帯電話を使ってポルノを見ることを防ぐためだと説明している。
アダルトサイトにアクセスできるようにするには、顧客はクレジットカードの詳細情報をボーダフォン・グループ社にネット経由または電話で送信するか、もしくは直接出向いて提示して自分の年齢を証明し、アダルトサイトへのアクセス阻止を解除するよう明確に要求する必要がある。
『最も悪質な政府機関賞』を受賞したのは、『
http://www.statistics.gov.uk/cip/default.asp 市民情報プロジェクト』を推進するイギリス国家統計局だ。このプロジェクトは、イギリス国民のデータを収集し、データを照合したり、他の政府機関とデータを共有したりすることを目的とする。
次点は運輸省で、現在開発中の電子的車両識別プログラムがその選考理由だ。通称『ダッシュボードの中のスパイ』で知られるこのプログラムは、車両にマイクロプロセッサー・チップを埋め込むことを計画している。このチップが、スピード違反や違法駐車、その他の重大な違反を当局に自動的に報告し、この報告をもとに当局が違反者を呼び出せるという。
「われわれは今、最悪の状況をゴールとした競争を目の当たりにしている。プライバシーに関して最も不安定な環境で最も侵害度の高いサービスを提供しようと、政府や民間組織が競い合っているのだ。子どもを守る必要性やテロとの戦いが、臆面もなくプライバシー侵害の口実に使われていることがある」とデイビス氏は語った。
プライバシー・インターナショナルは今年9月、世界中で行なわれているテロ対策政策の現状に関する総括的な研究結果を公表する予定だ。
[日本語版:天野美保/高森郁哉]
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