2004年07月27日(火) 16時26分
[ニュースその後]「ルネックス」訪問販売事件 /埼玉(毎日新聞)
◇88歳女性から890万円むしり取る−−「刃向かえば、ひとたまりもない」
住宅リフォーム会社「ルネックス」(名古屋市)による訪問販売事件で、同社埼玉営業所員の男が、「生きていくのにお金がいるの」などと嘆願する88歳のおばあちゃんから890万円をむしり取っていたことが分かった。事件はおばあちゃんのポツリポツリと話す証言が端緒となり、県警は詐欺や恐喝を視野に入れながら、特定商取引法違反容疑で立件にこぎつけたのだった。【村上尊一】
02年12月。「近所のおばあちゃんがシロアリ業者に金をだまし取られているみたい」。民生委員から杉戸署生活安全課にそんな相談があった。
同社の男数人がその前月、同町のおばあちゃん宅を訪れ、防虫ネット6枚(計1万5000円相当)を換気口に取り付け、調湿剤2袋(計2万円相当)を床下にまいた。
「お金のかかることはやめて」とおばあちゃんは頼んだ。「現金がないの」というと、預金通帳の残高を確認して引き揚げたという。男たちはその後、2度にわたりおばあちゃんを車で銀行に連れ出し、計750万円を支払わせた。3度目は残高の全額150万円に目をつけた。「私だって生きていくのにお金がいる」とおばあちゃんは訴えた。そうすると、男たちは10万円を残し、140万円を持ち去った。
「ひどい。詐欺か恐喝だ」。03年3月、捜査員は怒りがこみ上げた。立件には脅迫などを明白に裏付ける被害者の供述が欠かせない。だが、おばあちゃんは高齢で目や耳が不自由だった。証言がはっきりしていない。
—なぜ払ったの?
—何かをしてもらったの。だから代金を払った
—殴られた?
—何もされない
—脅された?
—何も言われてない
—(最初に払った)300万円は高過ぎる
—そう感じた
—ではなぜ?
こうした捜査員とおばあちゃんとのやりとりは100回を超えた。
おばあちゃんは、支払い日と金額だけはしっかり覚えている。捜査員は胸が痛んだ。「独り暮らしの高齢者にとって、お金だけが信頼できるものなのだろう」。おばあちゃんに子はない。69年に夫と死別し、ずっと独りだった。預金は小学校の先生だったおばあちゃんが年金をこつこつ蓄えたものだったのだ。
04年2月に県警生活経済課との合同捜査に入った。県警ぐるみの捜査になった。4カ月後、4人を逮捕する。
県警によると同社への被害相談はすでに30件を超えている。「マルイ人を狙った」。調べに対する男たちの供述だ。独り暮らしのお年寄りや気弱な人などだましやすい人のことらしい。
おばあちゃんの被害そのものは立件できなかったが、捜査員はおばあちゃんがつぶやいた言葉を忘れない。
「世の中には、何をするかわからない人間がいる。刃向かえば、年寄りはひとたまりもない」
7月27日朝刊 (毎日新聞)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040727-00000125-mailo-l11