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2004年07月16日(金) 02時23分

7月16日付・読売社説(2)読売新聞

 [マイクロソフト]「存在感を世に示した公取委」

 かつて「吠(ほ)えない番犬」と皮肉られたこともある公正取引委員会が超大物にかみついた。

 相手は米国のマイクロソフト社、世界のパソコンで使われている基本ソフト(OS)の94%を独占する巨大ハイテク企業である。

 公取委によると、マ社は日本のパソコンメーカー十五社とOSの使用許諾契約を結ぶ際、特許権侵害でマ社を訴えないと誓約させる「非係争条項」を、契約書に盛り込んでいた。

 公取委は、独占禁止法の「不公正な取引方法の禁止」に抵触すると判断し、この条項を破棄するよう勧告した。

 マ社は「勧告は不当」とし、審判や裁判で、公取委と全面対決する構えだ。

 審判では、圧倒的なシェアを持ち、優越的な地位に立つマ社が、どんな行為をすれば違法になるか、という法的な問題が問われる。感情的にならず、正面から議論を戦わせてほしい。

 勧告の背景には、次世代の主力商品となる「情報家電」を巡る、日本勢とマ社の主導権争いがある。

 情報を処理し、伝送する機能をテレビなど個々の機器に持たせたい日本勢に対し、マ社はパソコンのOSにそうした機能を集中させたいと考えている。

 一部の日本メーカーは、画像処理などの自社特許がマ社のOSで侵害されている可能性を指摘するが、非係争条項で泣き寝入りさせられているのが現状だ。

 非係争条項は、欧州連合(EU)や米国の独禁当局から問題視されたことがあり、マ社も来月に更新する契約から、この条項を削除することにしている。

 しかし、過去に結ばれた契約の効力が当分、残るため、公取委は世界で初めて同条項を違法とする勧告を出した。

 マ社は、日本メーカーは同条項を含まない契約も選べること、米欧の独禁当局も最終的に同条項を違法とはしなかったことなどを挙げ、審判で自社の正当性を主張していく方針だ。

 審判では、日本メーカーに契約選択の自由度がどの程度あったかなどが、争点になるだろう。

 欧州委員会はこの三月、マ社がOSと音楽・映像再生ソフトを抱き合わせ販売しているとし、約670億円の課徴金の支払いを命じた。マ社はこれを不服として裁判に持ち込んでいる。

 一方、以前はマ社の抱き合わせ販売を厳しく指弾した米司法省は、ブッシュ政権の発足後、融和路線に転じた。

 マ社を巡って米国対日欧の対立が生じているようにも見えるが、実態は個別企業の紛争に過ぎない。三極の政府は法的手続きの進行を静かに見守るべきだ。

http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20040715ig91.htm