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中央区銀座五丁目。歌舞伎座前の銀座クイントビル九階に市が立つ。約百五十平方メートルのスペースにスイカや野菜、マグロや花まで、所狭しと並んでいる。価格は、大根一本百円、トマト四個で二百円と手ごろ。法被姿の人たちが、客に声をかけて店内を回る。
秋田県や千葉県から来た農家の人や、静岡県焼津の漁協の人たちだ。パンフレットを配ったり、商品の説明に熱がこもる。その場で調理した料理が皿に盛られると、お客さんたちが試食しようと一斉に手を伸ばす。活気にあふれ、よく売れている。窓の外には青空のもと高層ビル群が見える。
五月二十二日に行われた第一回青空市場の様子だ。来場者は千人を超え、生産者、消費者双方から好評だった。
永島敏行さんは「予想以上の成果でした。生産者から『銀座の客に褒められたようで、自信がついた』と感謝され、お客さんも『楽しかった』と満足したようです」と手応えを感じている。
永島さんが農業に興味を持ったのは十三年前。秋田県十文字町の「あきた十文字映画祭」にゲスト参加したのがきっかけだった。
「映画祭は、歓迎されるだけの一方通行。(素晴らしいところだったので)長く交流しようと考え、地元の方にコメ作りを教わることにした」
子どものころ、自然が豊かに残っていた千葉市で育ち、田んぼで遊び、ドジョウやザリガニ取りをした思い出があったので、自分の娘にも自然を体験させたいと考えた。
「最初はきつかったけど、農作業した達成感や収穫したコメを食べた喜びは大きかった」と振り返る。以来毎年、田植えと稲刈りに通い、一緒に行く仲間も増えた。
農家の思いを聞くうち、永島さんは「食の安全が社会問題化する今、生産者と消費者はもっと交流すべき。生産者が直接販売できる市場が東京にもあればいいのに」と青空市場を考えたという。
第二回の青空市場(午前十時−午後六時)には、徳島県由岐町のアワビやサザエ、北海道雄武町の毛ガニや酪農品、長野県小布施町の黒豆ドリンクなどが出展される。三重県飯高町の国産紅茶、山形県飯豊町のトマトやアスパラガスも並ぶ予定。
場所は一回目と同じ。普段はレストラン「サロン・ド・サンク」が営業する場所。なぜ、ビルの中で行われるのか。
「本当は屋外で行いたいが、保健所の許可が必要で難しい。レストランは衛生面で条件をクリアしていたし、オーナーが全面的に協力してくれたので」と永島さん。
当面、年四回開催し、実りの秋には広い場所で行おうと計画中だ。東京国際フォーラムの広場のような場所で大道芸の人たちを交えて、お祭りのようにしたいとか。
「パリの高級ブランド店は敷居が高いが、マルシェ(市場)でリンゴを買って食べると、パリジャン気分を味わえるでしょ」と、永島さんは青空市場の魅力を語る。
「品質を保ちながら、変化の激しい自然の中で何カ月も作物を育て続けるのは大変です。そんな農家の努力を理解したい。そのおかげで僕たちは生きていけるのだから」
こう語る永島さん自身、農作業を始めるようになって、仕事の心構えも変わってきた。虚を演じる役者の仕事にむなしさを感じたこともあるが、土を耕すことで、落ち着きを取り戻したという。
「役者も野菜みたいなもの。自分を品種改良しながら、旬な状態に育てなければならない。この人たちの思いを伝えるのも役者の仕事だと思うようになった」と話す。
問い合わせは、青空市場事務局(まちむら交流機構)=電03(3548)2712=へ。
文・吉岡逸夫/写真・坂本亜由理、吉岡逸夫
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