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成立したばかりの年金改革関連法のうち、厚生年金保険法に改正すべき条文の直し漏れがあり、条文どおりに解釈すれば一部の上乗せ年金が支給できない可能性もあることが22日、明らかになった。厚生労働省もミスを認めている。原則的には10月の法施行前に再改正が必要だが、厚労省は運用で乗り切ることを含め対応策を検討している。年金改革法は度重なる情報開示の遅れや与党の強行採決で、野党各党が「白紙撤回」を主張しており、参院選へさらなる批判の材料を提供した格好だ。
直し漏れが分かったのは、会社員などが加入する厚生年金保険法の第44条。年金受給者の配偶者が65歳未満や子どもが18歳未満の場合などに、通常の老齢年金に加えて「加給年金」を支給することを定めている。
改正前の44条は、通常の年金額を定めた43条に続く形で、「前条の規定にかかわらず、同条に定める額に加給年金額を加算した額とする」として、老齢厚生年金に上乗せして加給年金を支給することを規定していた。
今回の改正では、43条に新たに2〜5を付け加え、年金の給付額を抑制する「マクロ経済スライド」の内容を盛り込んだ。その際、44条は手直ししなかったため、44条の「前条」「同条」は、新たに加わった43条の5を示すことになり、上乗せ支給の法律上の根拠がなくなってしまった。浅尾慶一郎参院議員(民主)の指摘で分かり、厚労省も「チェック漏れだった」と認めている。
社会保険庁によると、加給年金の支給対象者は03年3月現在で315万人おり、このままでは混乱も予想されるため、厚労省は善後策を検討し始めた。具体的には(1)秋までに国会に新たに改正案を提出する(2)正誤表で対応する(3)当面は法改正なしで運用し、将来の改正時に修正する——などが挙がっており、今後、内閣官房とも協議して対応を決める方針だ。
ただ、参院選後の国会日程は固まっていないうえ、10月の法施行までの時間的な余裕は少ない。年金改革法の白紙撤回を要求している野党が、法改正に応じる可能性も低く、厚労省は「法改正時には、こうした『条文ずれ』はよくある。44条の『前条』と『同条』が43条を指すのは、流れから明らか」などとして、できれば法改正なしで乗り切りたい考えだ。
今回のミスについて内閣法制局は、省令や政令と違い入念なチェックが要求される法律では「めったにないこと」としている。新藤宗幸・千葉大法経学部教授は「内閣提出法案である以上、法制局のチェックが働いていないのも問題。法制局が各省庁出身者の寄せ集めになっている構造も、ミスの背景にあるのではないか」と指摘する。
年金改革法を巡っては、「現役世代の平均手取り年収の50%確保」が公約だった厚生年金の給付水準が、受給開始後に5割を割るとの試算が法案の衆院通過後に判明。制度設計の根幹となる合計特殊出生率が政府の想定より低下したことも法成立後に発表されるなど、重要情報の「後出し」が相次いだ。今回のミス発覚で、同法への信頼性がいっそう低下するのは避けられない。野党側が上乗せ支給そのものに反対する可能性は低いが、政府の責任追及に拍車がかかりそうだ。
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〈キーワード・加給年金〉 厚生年金や共済年金で、原則として年金受給者の配偶者が65歳未満の場合や、18歳未満の子どもがいる場合などに、通常の老齢年金に上乗せで支給される制度。年金生活に入って、急に生活が苦しくならないようにする仕組みで、一般の給与の扶養手当に似た性格を持つ。配偶者の年収が850万円未満という制限や夫婦の年金加入年数の条件などがある。(06/23 08:02)