悪のニュース記事

悪のニュース記事では、消費者問題、宗教問題、ネット事件に関する記事を収集しています。関連するニュースを見つけた方は、登録してください。

また、記事に対するコメントや追加情報を投稿することが出来ます。

記事登録
2004年06月22日(火) 19時40分

[継ぐ・松本サリン事件10年]第2部/上 被害者支援 /長野毎日新聞

 ◇国は十分な対策を−−お金じゃない、死無駄にせぬために
 あれから10年の歳月が流れようとしている。94年6月27日深夜、松本市北深志の住宅街で発生した「松本サリン事件」は、死者7人、重軽症者約600人の被害を出した。事件は、多くの人の心に深い傷を刻むとともに、さまざまな問題を社会に投げかけた。犯罪被害者の支援体制、マスコミ報道の問題点、テロの危険性——。事件を教訓に何が変わったのか。【松本サリン事件取材班】
 「あれが息子の通っていた小学校」。小林房枝さん(62)は、水田の向こうの丘を指さした。梅雨の中休み、真夏のような日差しに、白亜の校舎が光って見える。
 静岡県掛川市の郊外。松本サリン事件で命を奪われた小林豊さん(当時23歳)は、ここで生まれ育った。高校卒業後、東京の大学に進学。事件に遭ったのは社会人2年目、半年の予定で松本市に赴任した直後だった。
  ◇  ◇  ◇
 小林さんは事件後「この国には犯罪被害者や遺族を支援する制度や法律がほとんどない」と感じたという。当時、遺族や被害者が受けられる国の補償は「犯罪被害者等給付金支給法」(犯給法)に基づく給付金のみ。申請から支給まで半年以上もかかったうえ、額も「葬儀代にもならない」ほどだった。
 小林さんら遺族4人はオウム真理教(アーレフに改称)代表、松本智津夫(麻原彰晃)被告(49)を相手取り、損害賠償請求訴訟を起こした。01年7月、東京地裁は松本被告に4億6500万円の賠償命令を下したが、被告に支払い能力がなく、現在に至るまで1円も受け取っていない。
 事件の第1通報者で県公安委員、河野義行さん(54)は「国は犯罪被害者を『刑事裁判のための証拠』としか考えていない」と話す。「国は『被害者は加害者に損害を賠償してもらえ』との姿勢だが、加害者側に支払い能力がない場合が多い」と問題点を指摘する。
  ◇  ◇  ◇ 
 10年がたち、犯罪被害者を取り巻く環境は、徐々に変わりつつある。松本サリン事件や翌年の地下鉄サリン事件を契機に、犯罪被害者対策拡充の機運が高まった。01年には犯給法が改正。遺族給付金の最高額は1079万円から、1573万円に引き上げられ、支給対象者も広がった。また被害者支援の民間組織や行政窓口も整い始めた。
 しかし県犯罪被害者支援センター事務局長、酒井宏幸弁護士(45)は「まだ不十分」と指摘する。国が完全賠償を実施するフランスなどの例を挙げ「総合的な対策として、犯罪被害者救済の基本法が必要」と説く。
  ◇  ◇  ◇
 小林さんら遺族は今、被害者対策の進展を国に働きかけていこう、と話し合っている。「お金の問題じゃなく、息子の死を無駄にしたくないだけ。何も残せなかったら、あの子に申し訳ない」(つづく)(毎日新聞)

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040622-00000002-mai-l20