2004年06月01日(火) 11時30分

「９８％が違法利用」と京都地検　Ｗｉｎｎｙ事件被告起訴（京都新聞）

インターネットの大手掲示板に書き込まれていたウィニーの開発意図 　 　ファイル共有ソフト「Ｗｉｎｎｙ（ウィニー）」をめぐる著作権法違反ほう助事件は、東京大助手金子勇被告(33)の起訴で新たな局面を迎えた。卓越したプログラム技術から「神」とも称された金子被告。通信の「道具」にあたるソフトの開発者を逮捕することの是非について、インターネット掲示板やＩＴ（情報技術）業界、法律関係者の間で議論が起こった。ウィニーを開発した目的は何だったのか。論争と事実解明の場は京都地裁法廷に移る。
　■開発モラル問う
　５月１８日に開かれた拘置理由開示の法廷。逮捕後初めて姿を見せた金子被告は「犯罪に使えとほう助した記憶はない」と述べ、容疑を否認した。弁護団も「開発は技術的検証が目的」と主張し、逮捕を批判した。
　京都地検の高田明夫次席検事は３１日の記者会見で、ソフトという道具を包丁と拳銃に例え「包丁を数１０万本作っても、人殺しに使うのは１本あるかないか。拳銃は金づちとしても使えるが、大半は人を殺すためにある。ウィニーは大半が著作権侵害に使われている。何を目的にしたのかが基準だ」と、ウィニーでの違法行為横行を起訴理由の一つに挙げた。
　これに対し、弁護団は同日の会見で「拳銃を作れば銃刀法違反、これは法があるからいい。拳銃作れば殺人罪のほう助ですか」と述べ、検察側の論法に疑問を呈した。
　海外では、ソフト開発者に法的責任はないとの判決もある。今後の公判では▽開発意図と自白調書の信用性▽利用者の違法行為に対する開発者の法的責任−をめぐり、激しい応酬が予想される。
　■思想の弾圧か
　利用者１００万人ともいわれるウィニー。開発者の逮捕の是非は、専門家の間でも議論を呼んだ。
　インターネット総合研究所（東京）の藤原洋所長は「ウィニーは違法コピーの流通に最適なソフト。研究は自由だが、研究者は開発したソフトへの結果責任がある。ウィニー開発者は研究者のモラルを明らかに逸脱している」と、研究者の社会的責任を強調し、捜査当局の判断を支持する。
　一方、甲南大法科大学院の園田寿教授（刑法）は「著作権法違反のまん延が目的との発言が仮にあったとしても、それは思想の表明で、ほう助の故意とみるべきでない。問題は思想の犯罪性が問われていることだ」と批判。「ソフト産業界は処罰を意識せざるをえず、委縮する」と危ぐする。
　■遅れる法整備
　ウィニーはファイル共有（Ｐ２Ｐ）ソフトの１種。Ｐ２Ｐは分散型の高速情報処理が可能で、ビジネスや学術分野をはじめ、国のＩＴ政策大綱でも、この技術の確立に期待を寄せる。性善説に立てば、デジタルコピーによる情報の共有と、匿名性による個人の自由な情報発信は、インターネット社会の本来の理想。匿名性を追求したＰ２Ｐを「ネットの究極形」と見る向きもある。
　しかし、著作権団体はウィニーや同種ソフトの現状を違法コピーの温床と見なす。国は４月、サイバー犯罪条約を批准し、ネット上の法違反取り締まりは一層厳しくなると予想される。過度の著作権保護が文化を殺すのも、また事実だ。
　Ｐ２Ｐを含むデジタル技術育成と著作権保護をどう調和させるのか。ビジネスモデルや法の整備が遅れる中、規制強化と技術革新だけが加速している。ウィニーのネットワークが壊滅しても、新しいソフトが登場する可能性は大きい。ネット社会の著作権概念そのものが、いま問われている。
　【地検次席検事　会見の要旨】
　京都地検の高田明夫次席検事は３１日、金子被告の起訴について記者会見した。要旨は次の通り。
　−ウィニーは、著作権を侵害せずに使うこともできるが。
　「検証の結果、数１０万件の利用のうち、そういう（適正利用）のは２％ぐらいで、ほとんどは著作権侵害。金子被告もその目的でしか使っていない」
　−外国では、ファイル共有ソフトの開発者の法的責任はない、との司法判断もあるが。
　「外国とは法制度も事例も違うので参考にならない」
　−ソフト開発者を委縮させる、という声もあるが。
　「開発自体は制限していない。ただ、法律に違反すれば、それに対応して処罰される。（立件の影響を）ソフト開発一般に持っていくのはおかしい」
　−金子被告は利用者に対し「違法に使わないように」と注意書きをしていたようだが。
　「それは慣用句のようなもので意味がない。本人も使っているのだから」（京都新聞）

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