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「次は由布院……」。博多発の特急「ゆふいんの森号」のつや光りする木の床を踏みしめながらホームに降り立つ。湿り気を帯びた冷気が心地よい。見渡せば、前も後ろも霧にけぶった山々。水墨画を思わせるその乳白色に「森号」の深緑と駅舎の黒が映える。
列車の横でさんざめく女性たち、カメラを構える若者、線路脇の足湯につかる老夫婦。1人として時間に追われる人はいない。
白馬の引く辻馬車
ゆったりしたリズムに感染してぶらぶらしているうちに、コンコースの人だかりがいつの間にか消えていた。駅員も奥に引っこんでしまったらしい。「どうしようか」。気がつくと、切符を指先でもてあそんでいた。
1990年の改築後、ここには改札口がない。ヨーロッパでは当然のことと聞くが、国内の人気観光スポットを抱える駅では珍しい。
「どんな駅がいいか、地元の皆で話し合っとった時、『外から来られる人を疑ってかかるのは良くない。100年遅れとる』となってねえ」。老舗旅館の主人・中谷健太郎さん(70)が経緯を振り返る。
奥ゆかしいもてなしと豊かな湯。筋の通った企画で人気の高い映画祭や音楽祭でも知られる癒やしの里ならではの柔軟な発想だ。
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町民の思いをJR九州がくみ上げた。赤字路線を多く抱えて発足した直後。“目玉”を探していた石井幸孝・同社初代社長(71)は、「国鉄時代と逆の発想が必要だった」。乗降の場から居て楽しい場へ。数ある候補地から由布院に白羽の矢を立てた理由を、「古典的観光地とはひと味違う、若者や女性の心をそそる魅力があったから。何より大きかったのは地元の熱意です」と説明する。
JRと町が費用を折半という形が異例なら設計を世界的建築家に頼んだのも異例だ。大分出身の磯崎新さん(72)。「特別な親しみを抱いている仕事です。僕が子供のころから親しんできた温泉と自然には、知人の外国人建築家も『素晴らしい』と口をそろえます」
構内には大きな時刻表もなければ、広告もない。代わりに、すっきりと天井の高い待合室兼ホールがある。最近、バリアフリーの通路やお手洗いも加わった。駅は、今も進化しつつある。