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2004年05月31日(月) 20時01分

[仮想の王国・ウィニー事件の深層]/下 /京都毎日新聞

 ◇“ウルトラC”発動、法務省の強い後押し
 「ウィニー」を開発した東京大助手、金子勇容疑者(33)に捜査の手が及んだのは昨年11月だった。府警ハイテク犯罪対策室などがウィニー利用者2人を摘発した際、関係先の一つとして金子容疑者の自宅を家宅捜索。パソコンや書類などを押収した。
 金子容疑者は捜索後、ウィニーを無償公開していたホームページを閉鎖したが、府警の任意の事情聴取に対し、「ネット上でデジタルコンテンツが取引されるのはやむを得ない」と主張。「新たなビジネスモデルを模索するために、著作権侵害をまん延させて現在の著作権の概念を変える必要がある」などと持論を展開した。一方でインターネット掲示板「2ちゃんねる」には、捜査逃れのために「最後まで名前隠します」と書き込んでおり、捜査当局は「ネットの匿名性を利用した社会秩序への挑戦」と受け取った。
 捜査幹部は逮捕の狙いを「一罰百戒の一言」と説明する。仮に違法な利用を前提としていても、現在の法体系では開発そのものの違法性は問えない。「金子容疑者の処罰よりむしろ、100万人を超える利用者に『開発者逮捕』の衝撃を与えることで、まん延する違法コピーに警告を発することが重要だ」と語る。
 「違法行為を故意に助長した」として犯罪ほう助を認定するのは法解釈上も異例。今回の逮捕にはコンピューター関係者だけでなく、法律家の間からも疑問の声もある。
 金子容疑者の弁護団を結成した京都と大阪の弁護士10人は「ほう助罪の要件はあいまいで、逮捕は不当と言わざるを得ない」と反発。事務局の壇俊光弁護士は、「クリエーターの育成を妨げ、表現活動に大きな制約を加えるものだ」と捜査のあり方を批判する。
 実は、府警内部の反応も分かれている。「ウィニーの開発自体、著作権という秩序の転覆を狙った一種のテロ。現行法を最大限に活用した逮捕は評価できる」とする幹部がいる一方、「サイバー環境の変化に合わせた法整備を進めた上で取り締まるのが筋。ほう助容疑という“ウルトラC”で、公判維持できるのか」といぶかる声もある。
 しかし、捜査幹部は「検察庁とも相談し、半年がかりで準備を進めてきた。証拠は既にそろっている」と自信を見せる。背景には法務省の強い後押しがあるとされ、本来は道具に過ぎないソフトの開発者についての「ほう助罪成立」という新たな判例を作った上で、「無法地帯」と評されるネット社会への法規制に乗り出したい、という同省の思惑も透けて見える。
 弁護団の結成以来、黙秘に転じているとされる仮想世界の“神”は、司法の場で何を語るのだろうか。【沢木政輝】(毎日新聞)

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040531-00000003-mai-l26