洋盤ＣＤが消える？著作権法改正案に批判続々ＣＤの還流防止措置の法制化を求めて会見した日本レコード協会の依田巽会長（左から２人目）ら音楽関係８団体の代表＝２月３日都内で（東京新聞）

2004年05月27日(木) 00時00分

「洋楽ＣＤの海外盤（洋盤）が買えなくなるのでは」−。今国会に提案されている著作権法改正案をめぐって音楽ファンの間で不安の声が高まっている。法案を作成した文化庁は「アジア製の邦楽ＣＤの還流（逆輸入）を防止するのが目的であり、誤解されている」と否定する。いったい、どうなっているのか。

　国内の音楽ＣＤは、再販制度によって安売りできないが、大手ディスカウントショップには、ライセンスを受けて台湾や香港などで生産され、日本に還流してきた安価な海外盤が並んでいる。

　こうした海外盤は国内盤より六割近く安いものもあり、日本レコード協会（依田巽会長）などが「邦楽ＣＤの還流が続けば、将来、国内の音楽産業は壊滅的な打撃を受ける」（高杉健二・同協会法務部長）として還流防止措置の法制化を要望していた。

　その改正案は、著作権者（作詞・作曲者）や著作隣接権者（レコード製作者など）が、現地向けの安価な海外盤が無断で逆輸入されるのを阻止できる「レコード輸入権」の導入をめざすのが柱。

　ところが、当初の目的は邦楽ＣＤの輸入規制だったのに、条文は邦楽も洋楽も区別していない。

　音楽評論家の高橋健太郎さんは「いつの間にか洋楽もひっくるめて、輸入盤全部を規制する法案になっていた。“副作用”の方が大きく、日本の音楽文化を衰退させかねない」と憤る。

　洋楽ＣＤはオリジナルの海外盤の方が、日本語の歌詞カードなどが付いた日本盤より二−三割安い。ジャケットのデザインや音質などから、わざわざ海外盤を買い求める音楽ファンも多い。

　高橋さんは今月中旬、仲間の音楽評論家ら二百六十八人と連名で「輸入規制に反対する声明」を発表した。坂本龍一さんらミュージシャン約三百人が同調したほか、インターネットを通じて賛同者が増え、反対署名は約一万人分にのぼった。

　反対派の動きに文化庁は「誤解」と反論するが、仮に誤解があったとすれば、原因はあいまいな表現で、具体性を欠いた条文にあるといえる。

■文化庁『規制は邦楽逆輸入だけ』

　同庁は「著作権法は権利者が外国人、日本人を問わず一律に適用する。『洋楽を除く』と書くと国際条約違反になる」と説明。「実際の運用で洋楽盤が輸入禁止になることはない」と言い切る。

　こう断言する根拠は、条文で「（著作権者らの）利益が不当に害される場合に限る」と、権利行使に一定の歯止めをかけていることだという。

　日本に比べると、アジア諸国の著作権使用料は（本体価格が安いため）半額以下の水準しかなく使用料が目減りする。洋楽は欧米の輸入盤と国産では一、二割しか格差がないので影響は小さい。

　「欧米の著作権料は日本より著しく安くはないので、洋楽の輸入を止めることはできない。５メジャー（ユニバーサル、ワーナーなど五大レコード会社）も日本レコード協会に『そのつもりはない』と回答している」と同庁担当者は請け合う。

　これに対して「５メジャーの話は協会幹部への私信にすぎない。著作権保護は業界保護ではないのに、文化庁はレコード協会の出先機関に成り下がってしまった」と批判する人もいる。法案の見直しを求める「民主党ホームエンターテインメント議員連盟」事務局長の川内博史衆院議員だ。

　「全米レコード協会は『並行輸入は悪であり、洋楽も等しく規制できるようにしてほしい』という意見書を文化庁に提出している。外圧で洋楽ＣＤの輸入が禁止される懸念は、払しょくされていない」と指摘する。

　法案には、公正取引委員会に「独占禁止法上の問題がある」という慎重意見もあり、消費者団体が相次いで反対を表明している。

　日本生活協同組合連合会の小熊竹彦さん（政策企画部長）は「日本の消費者は、世界に例のない音楽ＣＤの再販制度で、高いＣＤを買わされている。海賊版でもないのに輸入規制してレコード業界を二重に保護するのは、消費者に著しい不利益を与え、結局、レコード業界の首をしめることになる」と話している。

　法案は参院先議で先月、全会一致で可決。二十八日から衆院で審議に入る予定だが、反対集会など音楽評論家や音楽ファンの動きも活発になっており、目が離せない。

　文・阿部博行

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