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■勝 訴
今年三月、甲府地裁。山梨県南アルプス市の会社員男性Aさん(47)が甲府信金を相手取って起こした裁判で「千八百万円の債務は存在しない」という内容の判決が言い渡された。
「自分の名前で借りたことになってはいるが、実際には借りていない」というAさんの主張がはっきりと認められたのだ。
判決などによると、一九八九年にAさんの義兄が同信金に「家族の借金返済と自宅改修資金」として融資を依頼。Aさんの名義で融資契約が結ばれ、義兄や家族が融資金の千八百万円を受け取った。返済が滞り、Aさんが返済を迫られた。Aさんは、「まったく知らない」と主張したが、信金が認めなかったため、昨年、提訴に踏み切った。
裁判所は判決で、信金の担当者が「Aさんの意思を確認しないまま融資の手続きを進めた」と認定。融資関係書類についても「Aさんの実印が押されていたが、それだけではAさんが借り主であると認めることはできない」との判断を示した。信金は、東京高裁に控訴している。
■保険金流用
甲府市の主婦B子さん(36)は昨年、同信金に約四千八百五十万円の損害賠償を求める訴訟を同地裁に起こした。
訴状などによると、九七年にB子さんの知人男性が、B子さんに家族の交通事故の死亡保険金四千八百五十万円が出ることを知り、B子さん名義の預金口座を無断で同信金の支店に開設。口座に振り込まれた保険金を引き出した。男性はこの金を、自分の経営する会社の運転資金に流用した。
■信金『マニュアル通り』
B子さん側は「口座を開設する際に、本人確認をしっかり行っていれば起きなかったトラブル」と主張した。これに対し、信金側は「通常のマニュアル通りに本人確認をして開設。過失はなかった」などと反論している。
■債務の保証
同県山梨市でスーパーを営む古屋芳子さん(51)と古屋嗣雄さん(80)の親子は二〇〇二年、同信金に対する約四千万円の債務がないことの確認を求め、同地裁に提訴した。
訴状などによると、芳子さんと親しかった造園業者(故人)を信用していた嗣雄さんが、業者の言われるまま、具体的な記載のない「白紙」の状態だった同信金の融資関係書類に署名、捺(なつ)印を繰り返した。
業者は、こうした書類を使って、嗣雄さん名義で融資を受けるほか、嗣雄さんを業者が実質的に作ったペーパーカンパニーの借金の保証人にするなどして同信金から資金を調達。古屋さん親子が持つ不動産も、知らないうちに業者の借金の担保に入れられていた。
古屋さん側は、業者が作った嗣雄さん名義の預金関係のいくつかの書類で、嗣雄さんの名前が違っているなど、本人の意思で開設したものではないことが明らかと主張。信金側は、「業者は名義人の使者であり、古屋さん親子はそれを知っていた」などと反論している。
信金は古屋さん親子の不動産の競売手続きをしたため、古屋さん側は競売停止の仮処分を求めた訴訟も起こしたが、同地裁は昨年「融資関連の書類に署名捺印があるから契約は有効」などとして訴えを却下している。
■関東財務局対応を調査
本人確認は、金融機関の担当者が取り引きの本人に面談したりして、取り引きの意思を確認するのが基本。それが徹底されれば、問題はおきない。
しかし、甲府信金への訴訟が相次いだことから、衆院財務金融委員会で「甲府信金の本人確認がずさんではないか」という質問が出され、関東財務局が信金の対応に問題がなかったかなどを調査した。山梨県内では、原告たちを支援する会もできた。
特定の金融機関に対して本人確認絡みの訴訟が相次いでいることは異例だ。同信金経営監理部は「基本的には本人確認の作業はマニュアルに従って行っており、問題はない」と説明している。
http://www.tokyo-np.co.jp/00/kur/20040527/ftu_____kur_____001.shtml