2004年05月13日(木) 01時41分
<年金未納>旗振り役・公明も深手(毎日新聞)
「年金の党」を掲げる公明党で、神崎武法代表ら首脳を含む13議員の国民年金未納が12日、発覚した。これで未納問題は主要の全政党に及ぶことになった。特に公明党は03年11月の衆院選のマニフェスト(政権公約)でも年金改革を前面に出し、坂口力厚生労働相の所属政党でもある。同党は内部処分で批判をかわす構えだが、参院選でいくら力んでも、今後の対応を間違えると年金改革の説得力を失いかねない。【坂口佳代、上野央絵】
「大変厳しい批判を受けると思うが、公明党が日本の政治の重要な立場にあることを考えると、批判を甘んじて受けながら、今の体制でしっかり取り組ませていただく」
国会内で12日午後4時過ぎから約1時間に及んだ記者会見。神崎氏はきっぱりと引責辞任を否定した。
神崎氏は4月30日の会見で「私個人は保険料を完済している」と述べていた。さらに、同氏は同じ会見で、未納が発覚した民主党の菅直人代表について「他党や他人のことを言う前に自らが襟を正すことがなければならない」と批判した。
菅氏のように「未納3兄弟」などの厳しい表現は使わなかったものの、人を攻撃した事実は残る。12日、党内には大きな動揺が走っており、中堅議員は「年金を語る資格がなくなってしまう。参院選が戦えない」と話し、若手議員は「これでは支持母体の創価学会が持たない」と悲壮な表情で語った。
ある創価学会幹部は「幹部レベルはおおむね理解している。ただ一般会員がどう反応するか分からない」と語った。また「会員たちの声には耳を傾けてほしい」と条件をつけた学会幹部もいるという。神崎氏らのもとにはすでに支持者から抗議が寄せられており、世論の動向によっては内部処分で収まらず「神崎おろし」の動きが出る可能性もある。
一方、未納議員13人の公表をこの日に設定したことに対し、民主党から「年金制度改革関連法案の衆院通過のタイミングをはかった」(幹部)との批判が出ている。神崎氏は会見で「そんなことはありません」と気色ばんで否定したが、「再調査、再確認に時間がかかり、ギリギリの段階で判明したものもあり、まとめるのに11日深夜までかかった」と苦しい説明をした。
ただ、冬柴鉄三幹事長は3閣僚の未納が発覚した4月23日、すでに全議員に対して調査を促しており、公表までに約20日もかかるのは不自然。神崎氏は「いろいろ国会の日程も多忙な時期が続いた」とも述べており、法案審議をにらみながらの公表という疑念は簡単に消えそうもない。
「国民の皆様、なかんずく全国の地方議員、党員・支持者の皆様に衷心よりおわび申し上げます」
神崎氏は会見で2度にわたって立ち上がり、深々と頭を下げた。その脇に神崎氏がポーズを取り、「与直し公明党」とのコピーが大きく書かれたポスターが張ってあった。
◇与野党政界全体に飛び火
国会議員の年金保険料未納問題は、厚生行政に詳しいはずの橋本龍太郎元首相、丹羽雄哉元厚相という自民党厚生族のボスたちの連座に続き、年金改革が旗印の公明党の13議員も巻き込んだ。国会に年金論議を任せていいのか——。政界からは「年金不信の国民は誰を信用し、誰に期待すればいいか分からないのではないか」(自民党閣僚経験者)と自ちょうする言葉も聞かれ、7月の参院選で各党とも年金改革を争点にしにくい状況に陥った。
この閣僚経験者は未納問題の広がりに、多くの有力政治家が利益を約束された未公開株を受け取った「リクルート事件」を思い起こしたという。リクルート事件では対象者が役職からはずれ、政界は人材不足に追い込まれることになったが、今回は「誰も年金論議ができないことになり、八方ふさがりに追い込まれかねない」と言うのだ。
神崎氏は会見で「年金改革は制度設計の問題で、未納は手続き、運用の問題。別物だと考えている」と述べたが、言い訳と受け取られかねない。まして、負担増・給付減の年金制度改革関連法案をまとめた与党のトップの未納という事態は、国民の信頼を裏切ることになるのは間違いない。
このため、自民党の安倍晋三幹事長は同日、東京都内のホテルで記者団に「針小棒大な形で騒がず、本来の年金のあり方に戻っていくべきだ」と述べ、火消しに躍起になった。同党には各議員の自主的公表が相次ぎ、これ以上の泥沼化は避けたい思惑もある。
民主党も一部には「年金法案の扱いを取り仕切ってきたのに、今になって未納が分かるなど許されない」(若手議員)と、公明党を追及することで年金制度改革関連法案に影響を与えようという動きはみられる。しかし、「強く批判すれば、菅代表の問題を再び呼び起こしてしまう」(幹部)というジレンマもある。
自民党参院幹部は「参院選前に未納問題の世論調査が行われ、『手続きミスなら問題なし』との結果が出ればいい」と語った。(毎日新聞)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040513-00000205-mai-pol