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永井荷風の日記を読んでいて、「山師の玄関に異ならず」という表現につまずいた。辞書を引くと、「山師の玄関=実質がなくて、外観ばかりを立派に飾ること」(日本国語大辞典)とある◆使う機会もなかろうと思っていたが、そうでもないらしい。三菱自動車という邸宅の玄関には、信頼の紋章「スリーダイヤ」が麗々しく飾られている。奥座敷も立派とは限らない◆欠陥車隠しの疑惑に包まれた三菱ふそうトラック・バスは昨年、三菱自動車から枝分かれして生まれた。十二年もの間、死亡事故を含む数十件の脱輪事故を起こしながら、「整備が悪い」と顧客の側を責めてきたのは、玄関の立派な会社にほかならない◆社内では早い段階から欠陥に気づいていた疑いが濃厚である。安全性よりも会社の体面を大事にしていたのならば、「山師の玄関」でなくて何だろう◆筆頭株主のダイムラー・クライスラー社が、三菱自動車への支援を打ち切った。全面撤退の可能性もあるという。玄関の紋章だけで客人を引き留めることはできない◆潔癖性の荷風は企業の倫理にも一家言あったようで、一九三〇年(昭和五年)の日記にしるしている。「商品に先(さきん)じて商人の心を改良せしめざるべからず」と。リコール(回収と修理)を急ぐべきは、重大な欠陥が判明した「商人の心」だろう。