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2004年04月06日(火) 00時00分

初のネット高校 石川県に開校へ 『特区』から新風商魂秘め 東京新聞

 校舎のない日本初の公認「インターネット高校」が、石川県美川町に誕生する。不登校生徒を主な対象に全国から募集し、ほぼ自宅学習で卒業できる。通信制高校と違い、担任が携帯電話やパソコンで二十四時間支援するという。卒業時には日米両国の高校卒業資格を取得。関係者は教育界に新風を吹き込むと意気盛んだが、裏では経済効果の皮算用も働く。果たしてネット高校は根付くか…。 (立尾良二、松井学)

 歌手美川憲一をもじった「美川県一の町」の看板設置など、ユニークな町づくりで知られる人口約一万三千人の美川町。日本海に面し、雪を頂いた白山を背景に金沢、小松両市のベッドタウン化が進む。来年には、周辺八市町村が合併して「白山市」になる予定だ。

 ネット高校は、国の構造改革特区として認められたが、当の竹内信孝町長が「まさか認められるとは」と驚く。「最初はネット高校と聞いても何のことか分からなかった。面と向かってこそ教育だと思っていたし、町には不登校の小中学生もほとんどいないしね」

 同校は九月に開校予定だが、全国に百二十九校、約十七万人が学ぶ通信制高校とはどう違うのだろうか。

■パソコン使いほぼ自宅学習

 通信制高校は、学校教育法などで千二百五十平方メートルの校舎設置や登校によるスクーリング(面接指導)など義務規定がある。これに対し、教育特区の認定を受けたネット高校は規制緩和で、パソコンなどを使い自宅や旅先、さらには海外、どこでも“学校”になる。

 生徒は通信機器を使い、好きなときに「サポートティーチャー」と呼ばれる担任に指導を受けられる。自分で学習計画を立て、英語や数学などの必修科目のほか、興味のあることを自由選択科目として学習する。アルバイトや旅行の体験なども単位にできるという。

 米国のホームスクール(在宅学習)の先駆けであるワシントン州アルジャー・インディペンダンス高校と連携。卒業時には、同校と日本の高校の卒業資格を取得する。二年間で卒業も可能だ。初年度の募集生徒数は三百人、四年後には千人を見込む。

 実際に高校を運営するのは、二〇〇〇年から無認可でネット高校を開設している株式会社アットマーク・ラーニング(東京都品川区)。町立美川中学校の空き教室に拠点を移し、三年をめどに工業団地「美川インターパーク」内に本部を置く予定。金沢大学も協力に名乗りを上げた。

 なぜ美川町に開校するのか。

 同町近くに、世界を網羅するKDDIの海底ケーブルが陸揚げされている。

■海底ケーブルつなぐ工業団地に本部構想

 竹内町長は「うちの工業団地とケーブルを結んでデータセンターを設置すれば、二十時間収録のビデオ映像をわずか一分間で世界へ送る大容量の情報通信が自前で可能になる。これが将来性のあるネット高校を引きつけた」と自負する。

 裏には、ネット高校の誘致で教職員の雇用、町外からの来訪者による消費拡大など「年間数億円」の経済効果への期待がある。また、不況で全国の工業団地が荒れ野になる中、大容量のデータセンター設置で、関連情報企業の誘致を促進できるとの読みもある。

■高校中退12万 受け皿づくり

 一方、無認可で累計生徒数二百十人のラーニング社にとっても、美川町を通じて晴れて認可校となり、生徒増加が見込まれる。同社の日野公三社長は「不登校生徒や、フリーターの温床になっている高校中退者十二万人の受け皿づくりが堂々とできる」と話す。

 日野氏は、既存の通信制高校について「退職教員の再雇用事業にすぎない」と言い切る。「科目ごとに添削指導するだけで、教員一人が約二百人の生徒を受けもつ。授業料は年間約三十万円だが、地方の生徒にはスクーリングの上京費用など経済負担も重い。支援態勢が不十分で、卒業率は三割程度」と指摘する。

 一方、公認のネット高校になれば「二、三十代の多様な経験をした意欲的な教員を独自の試験で採用する。担任が受けもつ生徒数は二十人が原則。メールで二十四時間対応する。カメラ付きパソコンで動画の対面指導をするので、スクーリングの義務もない。八割の卒業を目指す」と話す。

 認定を受けるまで「文科省と相当やり合った」と、竹内町長と日野氏は口をそろえる。「教育は聖域という観念がはびこり、株式会社の参入に厳しかった。特区はそもそも地方オリジナルなのに、ネット高校は全国募集で矛盾している。ビルの一室を教室にできなかったり、管理監督責任をどうするかなど、規制緩和といってもハードルは高かった。官僚や教職員の既得権を侵すわけだから」

 これに対し、文部科学省の教育制度改革室は「基本的には通信制高校の設置と同じ考え方だが、特区で認めたネット高校は株式会社が参入するという点で初のケース。このため学校設置者がきちんとした組織なのかどうか厳しい審査が必要になった」と説明する。

 課題は多く、町、ラーニング社双方の思惑の違いも浮上している。

■年間授業料は70—80万円

 まず年間授業料が「七、八十万円」と高額なことだ。日野氏は「ネット料金は低く抑えられても、通信制高校と違い担任を充実するので人件費がかかる」と説明する。

 また、竹内町長は「白山登山など町の特性をいかしたスクーリングで、生徒や家族に町へ来てもらい、消費拡大や活性化につなげたい」と意気込むが、「ネット通信の双方向性に力を入れれば、スクーリングは不要になる」(日野氏)と矛盾もかいま見える。

 では、ネット高校の可能性を、子どもや親の立場から、どうみたらよいのか。

 子ども家庭教育フォーラム代表で教育・心理カウンセラーの富田富士也氏は、対人関係の苦手な子どもの増加が、通信制高校の数や規模を拡大してきたと指摘したうえでこう話す。

 「不登校や引きこもりが増える現状からみれば、インターネット高校も追認するしかない。だが、これは一方で問題の先送りにすぎず、もろ刃の剣になるという自覚が親にも子どもにも必要だ。人間関係のわずらわしさをどう乗り越えるか、という問題に二十代、三十代で直面することになり、将来にツケが回ってくる」

■他者と交わり自分見つめて

 さらに、こう付け加えた。「人間関係で傷つきたくない、いまの学校が個性に合わない、という理由だけでネット高校を選ぶのだとしたら、それは生きるためのハードルを自ら低くしているのだと気づいてほしい。個の重視が叫ばれ、SMAPのヒット曲でもオンリーワンがいいと歌われる時代だが、ネットの前にいて人と会わずにいる一人称の『私』だけの世界では『個』は成り立たない。二人称、三人称のあなた、彼、彼女といった関係の中でこそ、個性や自己肯定の考えを獲得できるのだから」


http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20040406/mng_____tokuho__000.shtml