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2004年04月06日(火) 00時00分

丹後のばら寿司(京都府・京丹後市)読売新聞


まるでお花畑のような色合いのばら寿司。ハレの日にかかせないおふくろの味だ ハレの日のご馳走にはかかせない 丹後地方のばら寿司は水と米が命

 京都府北部、日本海を望む丹後半島の京丹後市網野町に、伝統のばら寿司が生きている。「まつぶた」と呼ばれる浅い木の箱に敷き詰められた寿司は、朴(ほお)の木の寿司べらで、一人前ずつ取り分ける。野ヶ谷(のがたに)の澄んだ水で育つ美味しい米とおふくろの味のハーモニー。かつての農村文化も背景に浮かび上がり、興味深い。

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 京丹後市の山間の集落、切畑(きりはた)にある網野町山村体験交流センター「せせらぎ」では、平成11年のオープン以来、厨房の一切を地元の50代〜80代のお母さんたちが請け負っている。食事や宿泊ができるこの施設の名物メニューは地元に伝わるばら寿司。まつぶたに敷き詰めたので、昔はばら寿司そのものを「まつぶた」と呼んでいたが、昨今は小家族化でまつぶた自体がない家も多く、ばら寿司の名前で定着している。岸本巌センター長によると、近隣のイベントや祭りで数百食用意すると、毎回どの売り場よりも先に売り切れるとか。法事や祝い事の席にとの注文や、ばら寿司目当てにセンターへやってくる口コミ客、リピーター客も多く、知る人ぞ知る人気の味なのだ。

 厨房を覗き込むと、材料はサバのそぼろ、シイタケ、キヌサヤ、錦糸卵、カマボコ、紅ショウガ、と驚くほどシンプル。

「主役のサバのそぼろは、昔は焼きサバの身をほぐして、醤油や砂糖で味をつけて、そぼろにしてました。けど、今は缶詰の味付けサバを使ってます。堪忍してね」

……えっ!?缶詰? ふたたび拍子抜けしてしまったが、醤油色のそぼろはほんのり甘辛く、舌の上で溶けるようなきめ細かさだ。

 サバ缶から取り出した身は、骨や皮を除いてほぐし、酒を数滴ふりかけて臭みをとる。しゃもじで身をつぶしながら炒り、水分が飛んでパラパラになったら砂糖を加え、さらに15分ほど、丁寧に炒る。この間、手を休めず、目を離さず、が焦げつかせないコツだという。

「昔は竹串に刺した焼きサバを行商人が売りに来てねえ、法事やら節句やら、人が集まる時に、そのサバの身をほぐして、そぼろを作っては、ばら寿司を作ったもんです。それが子ども時分には嬉しくてねえ……」



サバのそぼろと寿司飯以外の具は、当日担当したおかあさんの味付けとなる。そぼろとしいたけを手でまんべんなく寿司飯にのせる。微妙な加減は長年の経験のたまもの 「田植えが終わる“早苗登(さなぼり)”の祝いにも必ず、ばら寿司を作ってました」

「田植えゆうたら、忙しい親戚や知り合いの家に慰労の意味で持っていく魚を“田植え魚”ゆうてね、“早苗登”の日にお寿司作って“入れそめ(お返し)”したりしたもんです……。町の中心部から5キロしか離れてないものの、昔はそんなもんしかなかったですから」

 口々に飛び出す記憶をたどってみると、どうやらサバのおぼろのばら寿司は、田の神様と隣近所を大事にする、農村の暮らしぶりに育まれた食のようだ。なぜサバなのか。

「サバは手頃な値段やし、あの脂と味だからこそ、おいしいお寿司になったんやないですかねえ。そぼろにしておけば日持ちもするし」

 しかし、なぜまつぶたに盛り付け、取っ手の付いた四角い寿司べらで取り分けるようになったかは皆さん、首を横に振るばかり。

「この寿司べらは母親の代から40年使いこんだもんですけど、なんでこれを使うようになったかは、家族もわからんゆうてます。けどともかく、このばら寿司はここでしか食べられません。朝夕の温度差がはげしく、山からの澄んだ水が流れ込む切畑の田んぼでできるお米の美味しさは昔も今も同じ。ええ水吸うて大きなった稲を、ええ水で炊いたご飯で作る手づくりの味ですから。味付けの分量?それは企業秘密ですけど(笑)」

 ふるさとを愛するおふくろさんたちの自信と笑顔もまたご馳走だ。(協力/日本観光協会 文/木村真弓 写真/宮川透)


【紹介物件】網野町山村体験交流センター「せせらぎ」 TEL 0772・72・5733、食事は9時〜17時、火曜休

【問い合わせ】京丹後市観光振興課 TEL0772・69・0450

【交通】「せせらぎ」へは、北近畿タンゴ鉄道網野駅下車、タクシー15分/舞鶴若狭道福知山ICから国道9、175、176、312、482号線、県道17、20号線経由約1時間30分

旅行読売2004年5月号より

http://www.yomiuri.co.jp/tabi/gourmet/fudoki/fd040501.htm