2004年04月06日(火) 00時00分
明日へ・ヤミ金の恐怖生徒は、返済がほとんど利息分に消えていくケースを示すグラフに見入った=馬頭高校で(朝日新聞・)
「ファクス番号なんて教えられねえよ、ばか。てめえで調べろ」
馬頭町の馬頭高校の体育館に、ヤミ金業者をまねた怒声が響き渡る。
講演しているのは、宇都宮市の弁護士、山口益弘さん(47)。その迫力に、聴いていた卒業目前の3年生約130人はちょっと、たじろいだ。
3万円の返済のために、300万円近く取り立てられた人、年利約40%で、30万円を1万円ずつ返すのに約15年かかるクレジットの泥沼……。山口さんの口からは、深刻なケースが次々と語られる。
被害に遭わないために必要なのは、「断る勇気」と「専門家に相談する勇気」だという。「専門家は決して君たちが相談して来てもばかにしない。それは、誰にでも起こりうることだから」
02年秋から高校生にそう訴えて歩いて回る。馬頭高校の3年生にとって卒業式前の「最後の授業」となった講座が、03年度の23校目の訪問となった。
●年間150件
山口さんが高校生を対象に講演を始めたきっかけは、若者を狙ったトラブルが、あまりにも増えたからだ。山口さんの法律事務所が、1年間に扱う自己破産申請の件数は約150件。20歳代前半で、必要のない品物をクレジットで買わされた、などのケースは後を絶たない。
未成年なら契約取り消しは可能だが「高校生の認識と現実のギャップは大きい。社会にでる前の、最後の啓発のチャンスだ」と山口さんは強調する。
●ヤミ金まで10カ月
講座で山口さんが事例に挙げた「キャッチセールス商法」の被害は、JR宇都宮駅の駅ビルで起きた。
宇都宮市に住んでいた男性(21)は、通路で声をかけられアンケートに答えた。だが連れられた宝石店で強引にすすめられ、「5年後に代金額で買い戻すから」と、100万円の宝石を買う契約を結ばされた。
だがわずか1カ月後、その宝石店は破産。クレジット会社に返品と契約の取り消しを求めたが、「宝石店との契約のことは知らない」と断られた。
支払いは月2万5千円が60回。アルバイトをして何とか返済していたが、その後、交通事故に遭い、月々の返済もままならなくなった。その時オリオン通りで目にしたのが、大手消費者金融業者の看板だった。
結局この男性は、6社から300万円借りた。その消費者金融からも借りられなくなり、手を出したのがヤミ金融だ。「ここに手を出すまで、たった10カ月ですよ」。山口さんが初めて男性に会ったとき、男性は2度、手首を切って自殺を図っていた。
弁護士が生々しい被害を紹介するという内容に、当初は、抵抗感を持つ学校や教育委員会もあったという。だが授業で具体的に触れることが難しいテーマだけに、その評判は学校側の間で広がった。
「社会の現実を専門の先生に聞く意義は大きい。卒業前の『必須科目』にしたいですね」
講演に聴き入った、同校の五味田謙一校長(現真岡高校長)の感想だ。
(河原田慎一)
(4/6)
http://mytown.asahi.com/tochigi/news01.asp?kiji=4035
|