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2004年04月02日(金) 00時00分

国による国のための年金 恩給法継ぐ特典もアリ 東京新聞

 年金積立金の株式運用で、莫大(ばくだい)な赤字が出ていることはよく知られている。ところが、株式運用の比率は、国民、厚生年金の方が公務員の共済年金に比べ、圧倒的に高い。国民の積立金はリスクの高い株式により多く注がれる一方で、共済年金の給付は、議員年金ほどではないが、国民、厚生年金より優遇されている。公務員による公務員のための年金行政の裏側は−。 (星野恵一)

■株の運用…差は歴然

 国民、厚生年金 約38%

 地方公務員共済 約18%

 国家公務員共済 約7%

 各年金の積立金の中で、二〇〇二年度末の運用資産に占める株式運用(国内株と外国株)の比率だ。株式運用の比率が高ければ、株価低迷による影響が大きくなる。同期の各年金の株式運用を含めた運用全体の損失を見ると−。

 国、厚 約三兆五千億円

 地公共 約一兆一千億円

 国公共 約二千億円

 国民、厚生年金の損失が極端に大きい。両年金の積立金の運用を行っている特殊法人・年金資金運用基金によれば、一昨年度末の運用全体の累積損失は、実に約六兆七百十七億円にも上る。

 「株式は収益性を考えれば悪くはないが、リスクを伴う。リスクを伴う制度を社会保障政策に取り入れてよいのか。今まで、国は『年金制度は社会保障』と言ってきたが、運用の実態は民間の保険と同じ。二枚舌だ。年金制度が保険であるなら、私的な保険制度にすればよい」

 こう指摘するのは年金制度に詳しい民主党の大塚耕平参院議員だ。他年金に比べ、株式運用の割合が高い背景については、「政府は認めないかもしれないが、国民、厚生年金が市場に大量に投入されるのは、PKO(株価維持)の意味が、現実にはある。共済年金の資金も投入されるが、使われる比率に差がある。国民、厚生年金の比率が高いのは、公務員自らの積立金ではないから、という意識があるのかもしれない」と話す。

 同基金の担当者の言い分はこうだ。「赤字が出ていることは重く受け止め、管理を徹底したいが、運用の比率は国の定めた基準に従ってやっている」

 その基準を作る厚労省はこう話す。「運用は二〇〇〇年度までは資金運用部に任せていた。資金運用部に残っている資産を含めれば株式比率はもっと低くなる。それから、(現在、比率が高いのは)旧年金福祉事業団(現・同基金)が一部、株式運用をしていたがその部分が残っているから」。同省と同基金の泥仕合の様相もあるが、運用方法が自主運用に変わり、妥当な構成比率にたどりつくまでの移行期間の比率という主張だ。

 問題の“株価維持”については同省側は「そういうことができない仕組み」と説明する。だが、仮に同基金が一挙に株式市場から資金を引き上げた場合を尋ねると、当の同省担当者がこう認める。「市場への影響は大きいでしょうね」

■責任不在だと将来は問題に

 先の大塚氏が話す。「株式運用のウエート付けをしてきたのは誰か。運用の実態などの責任がどこにあるのかを明らかにしないと、将来の年金制度の設計をしていく上でネックになる」。年金資金の無駄遣いとは別に、年金制度が「保険」か、「社会保障」かという問題だ。

■支払い28年で受給38年分!?

 さて、自らの積立金は、“大切”に運用する公務員の年金制度だが、給付面はどうなっているのか。勤続十年で受給資格を得ることができ、給付額も高い国会議員互助年金(議員年金)の存廃が議論となっているが、実は共済年金も優遇されている。
 
 「国民、厚生年金の給付は、報酬に応じた部分と定額部分がある。共済年金もそこまでは同じだが、そこに職域加算が加わる。しかも、職域部分は税金で賄われている」。優遇の仕組みを明かすのは、年金コンサルタントの田中章二氏だ。
 
 田中氏が試算したモデルケースをみれば一目瞭然(りょうぜん)だ。
 
 一九三一年四月生まれで、妻(60)があり、平均標準報酬月額が三十万円という、同じ条件の民間サラリーマンと、国家公務員の場合を比較する。すると、報酬に比例する部分と定額部分は、ともに年間二百四十四万四千円の支給となる。ところが、公務員の場合は、職域加算として年間十一万九千八百四十円が上乗せされる。
 
 「若干、国家公務員や地方公務員の共済年金の保険料は、国民、厚生年金より高いが、わずかに高い負担で、給付はグッと高くなる」と田中氏は話す。
 
 さらに「保険料のうち事業主として国や自治体が負担する部分は、税金から賄われる」(同氏)そうだ。
 
 公務員共済の関係者は、職域加算が存在する理由を「公務員は守秘義務があったり、政治活動を禁じられたり、労働三権の制約があるなど、公務の特殊性から、身分上の制約があるため」と説明する。が、田中氏は、職域加算のそもそもの背景を、こう明かす。
 
 「明治時代に始まった恩給法のなごり。恩給法は、特権階級の公務員しか入れなかった。保険料は全額、税金で賄っていた。公務員の年金制度が変わってきて、現在の地方、国家公務員の両共済年金となったのに、恩給法時代の優遇を、職域加算とした。退職金的な意味合いも含まれているが、これもおかしい」
 
 先のモデルは両者とも三十八年間、年金に加入したケースだが、「四九年に職に就いたモデルの公務員の場合は、国家公務員の年金制度が、共済年金に切り替わる前の恩給法時代の十年間は保険料を払わなくてよかった。実際には、二十八年間しか保険料は払っていない」という。
 
 一方、公務員や議員年金と、他の公的年金の給付を合わせて受ける場合もある。
 
 年金改革を進める坂口力厚労相の場合は、医師免許を取って三重県赤十字血液センター所長を務めた後に衆院議員となった。田中氏の試算では、議員年金だけでも約五百三十五万円の給付となる計算で、議員になる以前に、他の公的年金に加入していれば、その分が加わることになる。
 
■不平等制度 一本化せよ

 大塚氏は「共済年金の給付が高いのも問題。年金制度が複雑で、分からないから何でもやる、ということではいけない。原点に戻って、法の下の平等を考えるなら、制度を一本化すべきだ」と話す。田中氏も指摘する。「国民には、もっと怒ってほしいが、なかなか怒らない。なぜなら、受給間近の年齢にならないと、年金のことが分からないから。だから、国はやりたい放題。というか、国は国民が分からないようにしているとしか思えない」
 
 【注】文中の地方公務員共済年金の株式運用比率、損失額は、他年金と会計基準などが異なるため、同共済組合連合会が運用している分の数字。


http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20040402/mng_____tokuho__000.shtml