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[文春・高裁判断]「『プライバシーの侵害』は動かない」
東京高裁が、文芸春秋の「週刊文春」に対する出版禁止命令を取り消す決定を下した。
田中真紀子・元外相の長女の私生活に関する同誌の記事に対する出版禁止命令と、追認した東京地裁の二つの決定を覆す決定だ。
プライバシーの侵害と表現の自由をめぐる憲法上の重要問題で、司法の判断の結果は、二つに分かれた。
だが、長女に対するプライバシー侵害については東京高裁も認め、「守られるべき私事を、ことさら暴露したもの」とした。記事自体についても「公共の利害に関するものではなく、公益を図るものではないことは明らか」と断言した。
判断が分かれたのは、出版の差し止めを認めなければならないほどの「重大な著しく回復困難な損害を被る恐れ」があるかどうか、をめぐってだ。
出版禁止を認めた東京地裁は、「回復困難だ」と明確に認めた。だが、東京高裁は、禁止するまでの「程度」ではないと判断した。
東京高裁は、表現の自由の制約となる出版禁止を認めるには「慎重のうえにも慎重であるべきだ」と付言している。
今回の決定で、文春側は「表現の自由が守られた」と会見した。だが、プライバシー侵害の事実は動かない。
一部のメディアの露骨なプライバシー侵害など、「売れさえすればよい」という出版側の風潮について、司法の判断は厳しさを加えている。文春側が、表現の自由を声高に言うのは、逆に表現の自由への無用な制約を招くものだ。
文春側は東京高裁の審尋で、長女は、著名な政治家一家の後継者ともなる可能性のある準公人だ、との主張を繰り返した。だが、高裁は、「単なる憶測にすぎない」と否定した。
プライバシーの権利は、名誉権と共に憲法上の「人格権」の一部を成すが、両者には差異がある。それを峻別(しゅんべつ)して考えることが必要だ。
プライバシー侵害の特質は、ひとたび侵害されると、回復するのが困難ないし不可能なことだ。名誉棄損は、損害賠償訴訟など「事後の救済」による回復の余地が残されている。高裁決定は、この差異について曖昧(あいまい)であり、疑問が残る。
これに対し、東京地裁の決定はプライバシーの侵害を明確に認め、「名誉の保護よりもプライバシーの保護は、一層事前差し止めの必要性が高い」としていた。今後も、プライバシー問題の重要な論点になるだろう。
一連の司法の判断を踏まえ、基本的人権として定着しつつあるプライバシー権の論議を成熟させていきたい。