2004年03月26日(金) 14時28分
社説1 消費税の負担わかるような総額表示を(日経新聞)
商品やサービスの値札などに消費税込みの価格表示を義務づける「総額表示」制が4月1日から始まる。税込みの値段が買い手に分かりやすくなるのはよいことだが、制度の運用をめぐり懸念される点がある。
最大の懸念は表示の仕方しだいで税負担がどのくらいか分かりにくくなり、結果として消費税の野放図な増税を許しかねないことである。
昨年の消費税法改正では総額表示を義務づけたが、表示方法は基本的に売り手の判断に任せている。財務省は総額だけを示し本体価格や税額を表示しないやり方でもよいと言っている。例えば本体価格が9800円の商品は「1万290円」と税込み価格だけ、または「1万290円(税込み)」という表示で構わないという。実際にこうした表示にする予定の小売業者も多い。
これだと買い手にとって税金がどのくらいなのかピンとこない。消費税のように業者が実際の税負担者に代わって税務署に納める間接税は、所得税のような直接税に比べ、もともと「税の痛み」が弱いといわれる。総額だけ表示し税額や本体価格を示さなければ一段と痛税感が和らぐ。そうなれば為政者は消費税率を引き上げやすくなるというものだ。
年金の財源対策や財政赤字圧縮のため今後、消費税率の引き上げは避けられないだろう。だからといって引き上げやすいようにしてよいとはならない。まず歳出削減、特に行政改革が優先だし、規制改革などを通じた経済活性化による税収増を目指すことも大切だ。その上で必要最小限の増税をするという手順を踏むべきで、そのためにも買い手には常に税の痛みが感じられたほうがよい。
値札の大きさに限界があり税額や本体価格を書き込む余裕がない、などの事情を抱える業者もあろう。しかし可能な限り本体価格か税額、またはその両方を総額と一緒に表示してほしい。値札には無理なら、せめてレシートに記してもらいたい。
それは長い目で見れば、税率がデンマーク(付加価値税、標準税率で25%)やフランス(同19.6%)のような高水準になるのを防ぐための産業界の自衛策でもある。値札もレシートも総額だけ示す予定の小売業者があるのは残念だ。
総額表示に伴い小売業者が納入業者に値下げを迫る例も出ている。値下げ交渉それ自体は普通の話だが、独占禁止法違反の「優越的地位の乱用」に当たるような行為は慎むべきだ。それを含め総額表示が取引や税財政に不要で有害な影響を及ぼさないよう関係者の良識に期待したい。
http://www.nikkei.co.jp/news/shasetsu/20040326MS3M2601G26032004.html