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2004年03月18日(木) 00時00分

出版差し止め 狭まる『表現の自由』 東京新聞

 「週刊文春」の出版を禁じた東京地裁決定の背景には、表現・出版の自由の大切さを軽視する司法判断の流れがある。残念な決定だが、表現の自由を守るには読者の共感、支持が欠かせない。

 出版差し止めは表現・出版の自由や検閲禁止に反する可能性がある。そこで最高裁判例は「表現内容が真実でないか、公益目的の出版ではない事が明白で、差し止めないと重大で回復困難な損害を与える恐れがある」場合に限り許されるとした。

 「週刊文春」発売で、書かれた田中真紀子元外相の長女が回復困難な損害を受けるとは思えない。

 判例は政治家など公人の名誉棄損に関するものである。私人のプライバシーの問題である今度のケースを「表現の自由の侵害」とあげつらうことはためらわれるが、裁判官が短時間で重大な決定をしたことに、疑問も残る。

 芸能人の追っかけ地図など過去の例とは違い、大手出版社の普通の週刊誌が差し止められたのは深刻だ。これが口火となって追随する裁判官が続出しないか懸念される。

 数年前から報道機関や出版社に対する裁判所の姿勢は極めて厳しくなっている。名誉棄損、プライバシー侵害の慰謝料額が高騰し、記事内容の正確性にわずかな疑問でも残れば免責が認められなくなった。

 その背後に政治の動きがあったことは意外に知られていない。

 一九九九年八月、自民党の「報道と人権等のあり方に関する検討会」の報告書は、慰謝料引き上げ、謝罪文掲載命令の活発な発動を司法に求めた。国会では最高裁事務総局の幹部に慰謝料引き上げを要求する質問が繰り返された。国民の人権擁護のためとされたが、本音は政治家本人や支持団体の醜聞報道、批判に対するいら立ちとみられている。

 これを受けたかのような形で慰謝料が急騰したのは事実であり、万一の場合の高額慰謝料を恐れ一部では表現・報道の委縮が見られる。

 表現の自由は人が生きてゆくために欠かせず、社会を健全に維持し発展させる基盤だ。半面、使い方しだいでは他人に重大な損害を与える恐れもある。慎重に考慮して調整しなければならない。

 だが、最近の裁判例には、調整に悩んだすえに結論を出したとうかがわれるものは皆無に近い。他方で、他人の名誉やプライバシーを無視する表現も横行している。

 表現者の側は、自らが行使する自由の意味とその怖さを、その表現を裁く側は、自分の権力の危険性をあらためてかみしめるべきだ。


http://www.tokyo-np.co.jp/00/sha/20040318/col_____sha_____002.shtml